「ふるさとの雛人形」 | 日本玩具博物館

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企画展

春の企画展 「ふるさとの雛人形」

会期
2010年2月27日(土) 2010年4月20日(火)
会場
1号館

雛飾りが発展するのは、泰平の世の続く江戸時代のこと。都市部が経済力をもつ江戸後期に なると、裂製の優美な衣裳雛に諸道具や添え人形も加わり、豪華な段飾りや御殿飾りが出現します。さらに江戸末期から明治時代にかけて、土、紙など身近にある安価な材料を使って庶民 のための雛人形が全国各地で作られ始めます。こうした土雛や張り子雛は、「ふるさとの雛人形」として土地土地の表情をその身に映しながら、雛祭りの普及に大きな役割を果たしました。

本展では、当館が所蔵する約600組の雛人形コレクション の中から、ふるさとの雛人形を地域ごとに紹介します。今では 見られなくなった個性豊かな雛人形の数々には、春の節句を祝う人々の素朴な感情が表現されています。各地に伝承され、雛人形の祖形とも言われる流し雛や守り雛、時代を映す変わり雛の色々を加えて、日本の風土が育んできた雛祭りの幅広い世界を紹介していきます。
 6号館の特別展『雛まつり~江戸から昭和のお雛さま』とあわせ、春の人形たちをお楽しみ下さい。

展示総数  約300組

<ふるさとの雛人形> 

 江戸時代後期、衣裳雛が都市部の裕福な人々のものとして発展を遂げて行く一方、封建色の強い各地の農村部などでは身近にある安価な材料を用い、自給自足的に雛人形が作られました。土製のもの、反故の紙を利用した張り子製のもの、家具類製作時にでる木屑に糊を混ぜた練り物製のもの、また木製や裂製のものなど、土地土地に独特な着想で製作され、郷土の人々に歓迎されました。これらは、雛飾りが画一化する前の個性的な人形で、日本の雛人形史上に魅力を放っています。

三次地方の土雛飾り 上段にずらりと天神が並ぶ

●雪国の雛

江戸時代末期、農家の副業として奨励された土人形作りは、東北地方では、宮城県仙台の堤人形を中心として各地に豊かな花を咲かせました。秋田県八橋や山形県酒田の土雛は、雪国に春を告げるような明るい色彩がまぶしく、福島県三春の張り子雛は、享保雛風の動的な姿態とユニークな表情が笑顔を誘います。

三春張子の段飾り(福島県郡山市/昭和後~平成期)

●関東の雛

 江戸後期の川柳に「村の嫁今戸のでくで雛祭」とあるとおり、江戸付近の農村では当時、浅草・今戸焼きの土雛が盛んに飾られていたようです。埼玉県鴻巣では木屑を糊でといた練り物製の雛、千葉県芝原では土玉の入ったイシッコロビナなどが作られました。また、埼玉県や群馬県には、誕生や結婚の祝いに裃姿の童子雛一体を贈るという、この地方独特の風習が残されています。

鴻巣練物人形・内裏雛(埼玉県鴻巣市/大正期)

●中部・東海の雛

 土人形は型抜きをして製作されるため、同一文化圏には同じ型の土人形がよく見られます。岐阜県や愛知県の各地には、大きさや細部は異なりますが、よく似た形の土雛が残されています。いずれも濃い彩色と量感が特徴です。長野県松本には、綿を含ませた布を型紙にのせていく押絵の雛人形が伝承されています。

姫土人形・内裏雛(岐阜県可児市/昭和40年代)

●関西の雛

 約四百年の伝統をもつ京都府の伏見人形は、全国の土人形に影響を与えたといわれています。江戸時代末期の全盛期には窯元は五十余軒、種類は数百をこえ、土雛なども京土産として、西日本一帯へ流れていました。滋賀県小幡や兵庫県稲畑、葛畑などの土雛は伏見の系統をひくものです。この他、近畿地方には神社で授与される土俗的な雛人形が残されています。

伏見土人形・立ち雛(京都府京都市/昭和30年代)

*兵庫県但馬地方の雛飾り*

 黒の布を敷いた雛段の最上段には内裏雛を、二段目よりは女物、童子物、金太郎や武者、恵比須・大黒など様々な種類の添え人形が飾られました。一ヶ月遅れの四月三日の節句で、女の子と男の子両方の健康と幸福を願う雛飾りです。

但馬地方の土雛飾り(葛畑人形)

●山陰の雛

 鳥取県用瀬をはじめ、この地方には身の穢れを紙のヒトガタに託して川に流す「雛流し」の伝統行事があります。旧三月の節句に二対の紙雛を求めて雛段に飾り、一対は家に残し、一対は前年の一対とともに桟俵にのせて川に流します。また、島根県長浜には古今雛風の優美な土雛が残されています。

●南国の雛

 瀬戸内や九州地方には、両袖を前に重ねた型の土雛が多く見られます。九州には、これと同じ形の衣裳雛もあり、この地方の独自性と文化圏としてのまとまりをうかがい知れます。一方、鹿児島県の糸雛や沖縄県のウメントゥと呼ばれる紙雛など、子どものもち遊びにも適した素朴な雛人形が個性をはなっています。大分県日田に伝承される「おき上げ」と呼ばれる押絵雛も見どころです。

南国の雛 展示風景
日田のおきあげ(平成10年代)と押絵掛け軸雛(明治末期)

*掛け軸雛*

 雛飾りの様子を描いたもので、人形たちの姿態は活き活きとして自由に表現されています。画面をいくつかに区切って、内裏雛、三人官女、五人囃子、随身、仕丁などを描き分けるもの、御殿の中に暮らす人形たちの様子を描いたもの、また、人形を「押絵」でつくり、掛け軸に差し込んで飾るものなども見られます。江戸時代後期から明治・大正時代を経て、昭和初期頃まで庶民の家庭で人気を博しました。


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