展示・イベント案内
exhibition夏秋の企画展 「日本と世界のままごと道具」
- 会期
- 2013年6月1日(土) 2013年11月5日(火)
- 会場
- 1号館
■田圃の真ん中に茣蓙を敷き、草のお皿に土をこねた団子やレンゲの花を盛って遊んだことなどは、大人になっても心のどこかに鮮やかな思い出として残っているものです。模倣遊びの代表である「ままごと」は、2才を過ぎた頃から女の子が夢中になる遊びです。ままごと遊びをより楽しくする玩具が「ままごと道具」で すが、これは世界の各地で古くから作られており、それぞれの食文化や子ども観などを物語ってくれます。
■本展では、日本におけるままごと道具の移り変わりをたどり、また世界45ヶ国から収集した茶道具や台所のミニチュアなどを一堂に展示して、ままごと遊びの楽しい世界を紹介します。
■ままごと遊びの起こりを、民俗学の柳田国男は、小正月の「カマクラ」(秋田県など)や桃の節句の「オヒナガユ」(群馬県など)、盆の「盆竈(ぼんがま)」や「精霊飯(しょうりょうめし)」をはじめとする四季折々の儀礼から発達したものではないかと考えました。たとえば盆は、目に見えない精霊や無縁仏がこの世に戻ってくる時節、家の内にある竈(かまど)の火を用いることがはばかられ、一方、戻ってくる霊を接待し供養する必要があるため、成人ではない子どもたちに屋外で煮炊きをさせました。大人にとっては大事な儀礼ですが、子どもたち、特に少女たちにとっては公然と母親のまねごと遊びができる日であり、楽しく待ち遠しいおまつりであったことでしょう。こうした行事を起源にままごと遊びが盛んになったという説です。
■また、古墳時代頃の墳墓から生活道具のミニチュアが出土することがありますが、これをままごと道具の原型とする説もあります。ヨーロッパにおける玩具の歴史書などを紐解いてみても、古代遺跡から出土した土製の壷や碗のミニチュアが記され、ままごと道具とのつながりが強調されています。
■さて、各地のままごと道具を集めてみると、それぞれの国のままごと遊びに寄せる思いや食文化の形がうかがえます。美的にも機能的にも小型の本物を求める“ドールハウス”を育てたヨーロッパでは、ままごと道具においても、すべて実際に家庭で用いる道具が均一に縮小され、素材やデザインにも注視して製作がなされています。ここには、子どもに本物を通して、生活文化を伝承していこうとする西欧社会の考え方がうかがえます。また各地のままごと道具の中には、すでに使われなくなった道具がミニチュアとして残されていたり、あるいは逆に子どもの夢を反映して時代最新の台所道具が付加されていたり………と、歴史資料としても見るべきものがあります。
■本展は、日本のままごと道具の発展を時代を追ってたどるコーナーと、世界のままごと道具を紹介するコーナーを設け、約350組の資料を通して、ままごと遊びの子どもにとっての意味を探ります。「日本のままごと」では、雛祭りに登場する諸道具とも関連付け、ままごと道具の移り変わりを素材や登場する道具に焦点をあててご覧いただきます。「世界のままごと」では、ままごと道具を通してアジア、中近東・アフリカ、アメリカ、ヨーロッパの各地のキッチンを探訪します。
■ 展示総数 約350組/1000点
①世界のままごと道具
アジア
小さな茶道具や調理用具など、アジア各地の食文化を映す道具たちです。古くは祖先をまつる儀礼の中で登場した小さな食器もあり、伝承の長さを感じさせます。石や土、木、竹、植物繊維などで作られた自然味あふれる小さな食器を展示します。
アメリカ・ラテンアメリカ
ヨーロッパをはじめ、アジア、アフリカ地域からの多くの移民で成り立っている大陸だけにままごと道具に登場する食器の種類も多様です。ヤシの葉や棕櫚の繊維で編まれた素朴な器や籠が見どころ。各町の日曜市で売られていたものです。
中近東・アフリカ
中近東から北アフリカにかけての国々には、独特の曲線が美しい茶器セットや小さな器が見られます。真鍮や銅など金属の玩具が目立つ一方、木を削り、土をこねて作られた素朴な調理用具も特徴を示しています。
ヨーロッパ
ドールハウスが早くから発達したヨーロッパでは、人形たちのための小さな調理用具などが各地で作られてきました。また、農村部に伝わる郷土玩具の中には、アジアなどとも共通する土製や木製、植物編みの素朴な茶道具やテーブルウェアなどの玩具もあり、ヨーロッパのままごと道具は、近代性と民族性が同居した楽しい世界です。
②日本のままごと道具
雛遊びの世界
雛段に飾られる人形たちのための諸道具に加え、桃の節句には女の子は友達を招き、ミニチュアの食器で雛料理を楽しみました。明治・大正頃の雛遊びの道具を雛飾り用の勝手道具一式と合わせて展示します 。
ままごと道具の移り変わり
子どもの世界は、最新の家庭用品を取り入れることに敏感です。水道、冷蔵庫、ガスレンジ、オーブン……ままごと道具の台所は時代を映しながら発展していきます。また、木や土、紙を使ったものから、セルロイド、アルミ、ブリキ、プラスチック…と、その素材にも変化が見られます。このコーナーでは、江戸、明治、大正、昭和、平成と、時代を追ってままごと道具の移り変わりをふり返ります。
明治~大正時代
陶器や木で作られた茶道具や台所道具のいろいろを。百年前の少女たちは、こうしたままごと道具で母親の真似ごとをして遊びながら、将来、良き主婦になるための所作を身につけていったのでしょう。
昭和初~10年代
太平洋戦争以前のままごと道具は、明治・大正時代のものとほとんど様子が変わりません。木や陶器製の品物が作られていました。昭和10年代に入ると、アルミ製のままごと道具も作られました。
昭和20年代
明治時代に使われるように なったブリキ製の玩具が、戦後になると、急速に普及します。まな板に包丁、コンロ、釜や鍋…と、おおよそセットされる内容は決まっていますが、箸に代わってナイフやスプーン、フォークなども目だってきます。そして、昭和27~28年頃、プラスチック製のままごと道具が登場し、時代の人気をさらいました。
昭和30年代
ブリキ製のままごと道具とともに「新しい、きれい、軽い、割れない」プラスチック製が一般化する時代です。高度経済成長時代を目前に、システム・キッチンや最新式の電気ガマなどが登場して、ままごと道具の世界も近代化していきます。
昭和40年代
昭和40年代は、リカちゃん人形に代表されるファッション・ドールが人気を博しましたが、人気キャラクターがままごと道具にも影響を与えます。また、日本人の暮らし向きが西洋化するのに呼応して、ままごと道具もちゃぶ台文化からダイニングテーブル文化へと一挙に変貌をとげます。この頃に登場した“ママレンジ”は、家庭用電源を使って本物のケーキをやけるままごと道具で、少女たちの憧れの的となりました。
昭和後期~平成時代
プラスチック製ままごと道具の全盛時代です。小さなまな板の上で包丁をトントン叩いたまねごと遊びに、マジックテープでとめた野菜や果物をナイフでグジャリと切り落とす遊びが加わりました。生活文化の変化や教育玩具に対する新しい考え方などに影響を受け、ままごと道具はずいぶん様変わりしたように見えます。けれど、昔も今もごっこ遊びに夢中になる子どもの心に変わりはありません。
*****************************************************************
前の企画展 → 春の企画展*2013「春を祝うイースターエッグ」
次の企画展 → 新春の企画展*2014「おもちゃの馬」