展示・イベント案内
exhibition秋の企画展 「玩具にみる日本の祭」
- 会期
- 2010年9月18日(土) 2010年11月23日(火)
- 会場
- 1号館
● 日本全国いたるところに四季折々の祭礼があります。疫病や悪霊を退散させるもの豊作を祈るもの、豊漁と海上の安全を願うものなど、人々は祭礼によって神を鎮め、その行事の中に、生きる上での願いや祈りを込めてきました。祭囃子の笛や太鼓、獅子舞の先触れ、華やかな山車(だし)の引きまわし、神輿(みこし)のもみあい……それらが登場する順序やストーリー、被り物の色、賑やかな音と楽しげな音楽、そのすべてに、日本人が育んできた信仰や美意識が表現されています。
●秋祭の季節の到来です。子どもにとっての祭は、夢と空想を誘う楽しい行事であり、祭への参加を通して村や町の一員としての誇りを育みました。祭日の露店では、山車、屋台、神輿、獅子頭、天狗や火男(ひょっとこ)の面など、地域の祭礼にちなんだ玩具が売られました。それらを買ってもらった子どもたちは、祭が終わった後も、その様子をまねて遊び、夢の余韻を楽しんだのでした。
●こうした玩具は、それぞれの地域の屋台や獅子頭などの特徴をよくとらえて作られているため、日本各地の祭礼習俗を物語ってくれる資料でもあります。本展では、人々の暮らしの中から生まれたふるさとの祭礼玩具、約350点を項目別、地域別に展観するものです。展示品の中には、廃絶して今では地元でも見ることの出来ないものも多く含まれています。
●明るく華やかな祭りの玩具の数々は、かつての日本のハレの日の風景を甦らせてくれることでしょう。
■展示総数 約350組
●日本各地の祭礼風景●
山車が初めて登場するのは平安時代、京都の祇園御霊会(ぎおんごりょうえ)ですが、以来、千年の歴史の中で、全国各地に豪華な山車が生まれました。御霊会は、天災や疫病で非業の死を遂げた人々の怨霊を慰めるための祭りだと言われています。諸々の悪霊を誘い出し、封じ込め、外へ送り出すために、山車を華やかに飾りたて、賑やかに囃したてることが効果的だと考えられたのでしょう。
祭礼の中心ともいえる山車、神輿、屋台は、各地で盛んに玩具化されてきました。子どもたちは、これらを通して、自分たちの町の山車や屋台の形を楽しみながら覚えていきました。ここでは、山車、神輿、屋台など約200点の祭礼玩具を通して、日本各地に伝承される祭礼の色々を紹介します。
<東北地方の祭>
夏の悪霊を追い払う「ねぷた祭」や秋の豊かな実りを予祝する秋田の「竿灯祭」は、夏の夜を灯篭が美しく彩る祭礼です。青森の「えんぶり」や秋田の「なまはげ」は、雪の中で行われる農耕のための祭。東北地方は、季節ごとに味わい深く美しい祭が行われます。
<関東地方の祭>
江戸の荒祭として名をはせた「三社祭」や「神田祭」、華麗な歌舞伎が演じられる「秩父の夜祭」、神の拠り代(よりしろ)として能人形を山車の上にかかげることで有名な神奈川県伊勢原の「比々多神社祭」など、庶民が支えた数々の勇壮な祭が行われています。ここでは、大正から昭和初期にかけて子ども達に人気のあった素朴な神輿の玩具が勢ぞろいします。
<中部・北陸・東海地方の祭>
この地方には、山車や屋台に仕掛けられたからくり人形が奇抜な動きを見せる楽しい祭が目立ちます。飛騨の匠が腕をふるった屋台で知られる岐阜の「高山祭」や名古屋の「東照宮祭」がその代表。また、石川県の夏祭に登場する「切籠(きりこ)」や愛知県「津島川祭の船鉾」などは、山車の灯が揺らめく幻想的な祭です。今ではもう見られなくなった東照宮祭の各町の屋台は、昭和初期の玩具を通して今にその姿が伝えられています。
<近畿地方の祭>
ダンジリや屋台、太鼓台が賑やかに動く大阪や兵庫の秋祭は、庶民の農耕感謝祭ですが、疫病への恐怖から始まった京都の「祇園祭」や兵庫県姫路の「三つ山祭」のように、千年以上の昔から歴史の表舞台であった近畿地方には、格式と伝統を誇る祭も数多くみられます。
<中国・四国地方の祭>
香川県観音寺の「チョッサ」や坂出の「サシマショ」のように、瀬戸内周辺には、神輿の巡行を囃し立てる太鼓台から発展した山車や屋台が賑やかに祭場をねります。また、島根県津和野の「鷺舞」や愛媛県宇和島の「八つ鹿」のような可憐な祭礼芸能も各地に残されています。
<九州地方の祭>
この地方では、巨大な獅子や甲冑形の曳山(ひきやま)が登場する「唐津くんち」、蛇踊りや唐人船のつくりものが登場する「長崎おくんち」などの異国情緒あふれる祭礼が有名です。
「博多山笠」や北九州の「戸畑提灯山笠」のように、共同体の競争意識が育てた豪華な飾り山も特徴的です。
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●祭礼のお面●
子どもの面に影響を与えたのは、各地の民間信仰から生まれた里神楽の面であるといわれています。里神楽は、神社の祭礼で迎えられた神を慰めるために奉納される舞楽です。
この面を模して、天狗、鬼、おかめ、火男などの張子面が作られるようになるのは、江戸時代のこと。近代に入ると、全国各地で伝承されてきた張子面は、セルロイドやプラスチック製の面に押されて徐々に姿を消していきましたが、面には超自然的な力がひそみ、その威力によって悪霊を威嚇、退散させることが出来ると信じる心は、時を越えて、今の子どもの心にも受け継がれているようです。時代を彩った約80点のお面がずらりと並ぶ賑やかな展示コーナーです。
<天狗面>
神かくしや山中の幻聴などは、鼻が高く、山伏のような姿をした天狗の仕業と信じられてきました。天狗は、古来、人々が畏れ親しんできた山神の姿を表現したものとも、古代の神、猿田彦が姿を変えたものとも言われています。各地の天狗面のほとんどは、悪霊を払う力をもつとされる「赤」で彩色されています。
<狐面>
狐は、古くから稲の神である稲荷(いなり)の使いと信じられてきました。江戸時代、稲荷神を祀る初午祭が大流行。この日には、子ども遊び用の白狐面が人気を集めました。日本各地に優れたデザインの狐面が残されています。
<猿面>
猿は、山神の使いとして、日本各地の日吉神社などで信仰を集めてきました。また、病魔を払い去り、安産や長寿を司る神猿としても愛されています。狐と並んで、祭の日にはなくてはならない動物面の代表です。
<鬼面>
地上の邪神、死者の霊魂、怪物…など、鬼という言葉には様々なイメージが託されますが、祭に登場する鬼は、山から降りてきた神、あるいは異界から新たな力をもたらす神として敬い畏れられる存在です。
<おかめ・ひょっとこ面>
おかめとひょっとこは、ともに異形の人間を表しています。異形の顔が祭に登場するのは、笑いや驚きによって、汚れた現在の世界が壊され、祭場に新しい世界が生み出されると信じられたからです。
●獅子頭の玩具●
獅子頭のミニチュア。子ども達は、頭に手を差し入れて口を打ち鳴らしたり、自分の頭にかぶったり…と、獅子舞をまねて遊びました。
獅子頭は、奈良時代以前に渡来した中国伎楽のシシが原型になっているといわれていす。シシ(獅子)を、人間の生活を脅かす精霊、あるいはそれを鎮める霊獣として崇める民俗信仰は、中国、東南アジア、ペルシャにも見られます。祭に登場する獅子舞は、神楽の渡御(とぎょ)の先触れとして、また神輿に付き添って、祭場や道筋、家々の悪霊払いとします。獅子頭の玩具は、地方による造形の違いをよく表わしています。獅子が鹿や虎、麒麟である地域もあって、日本における獅子のイメージの豊かさをよく伝えています。
このコーナーでは、廃絶した資料もふくめ、明治末期から昭和40年代のものを中心に約120点を展示します。
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