日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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展示・イベント案内 exhibition

特別展

夏の特別展 「日本と世界のままごと道具」

会期
2019年7月13日(土) 2019年10月14日(月)
会場
6号館

ままごと遊び

野原の草を置いて玩具の包丁でとんとん刻んだり、小さなお椀に花びらや木の実を盛りつけたりして遊んだことがありますか。友達が集まって小さな食卓を囲み、それぞれに家族やお客様の役を演じながら、誕生会さながらのお茶会を開いた思い出があるでしょうか。そのような調理や配膳の様子をまねる遊びを「ままごと」と呼び、それは、幼年時代から少年少女時代にかけて、特に女児たちが夢中になる遊びです。
「ままごと」を漢字で書くと「飯事」。この漢字が示すとおり、ままごとは、本来、“食べること”を指しています。一方、英語には、ままごとを直訳出来る言葉  はみつからず、家事を真似た遊び全体が「Playing house」と表現されます。私たちもまた、“ままごと遊び”というとき、家庭的な“ごっこ遊び”や“人形遊び”を連想し、調理や食事のまねごとを中心に広がっていく遊び全体をイメージすることが多いかもしれません。

子どもたちのままごと遊び風景

  

ままごと道具

さて、ままごとをより楽しくする玩具を「ままごと道具」と呼びます。これは世界の各地で古くから作られており、それぞれのお国の文化や子ども観などを物語ってくれます。たとえば、ドイツやイギリスのままごと道具においては、実際に家庭で用いる道具が均一の割合で縮小され、素材やデザインにも注視して製作がなされています。ここには、子どもに本物を通して、生活文化を伝承していこうとする西欧社会の考え方がうかがえます。日本のままごと道具  セットでは、子どもの手に合わせて箸や包丁が大きく作られるのに対して、食卓や食器棚はとても小さいのです。そこからは、子どもの興味や関心に合わせて玩具を作っていこうとする大人たちの視点がうかがえます。

本展は、アジア、アフリカ、アメリカ、ヨーロッパの特徴あるままごと道具を集めて、世界のままごと遊びを探訪します。日本のままごとでは、雛まつりに登場する小さな台所道具や茶道具をとり上げ、ハレの日のままごと遊びについて紹介する一方、明治・大正・昭和・平成、と時代を追ってままごと道具の移り変わりをたどります。ままごと道具の素材が、時を経て、木や土や陶磁器からブリキやアルミニウム、そしてプラスチックへと変化していく様や、調理道具の電化によって台所や食卓がどんどん近代化していく様をも感じ取っていただけたら幸いです。

展示室をまわっていただくと、思わず手にとって遊びたくなるようなままごと道具がたくさん現れます。その愛らしさを楽しみながら、世界の子どもたちの遊びの風景を、また、私たちの国の五十年前、百年前の子どもたちがままごとに夢中になっている様子を想像してみて下さい。

     展示総数 約800点

世界のままごと道具――アジア

木、竹、植物の葉、土などの自然物から作られた小さな食器、鍋や土びんなどの調理道具に野菜や果物も加わり、ままごと道具からアジア各地の台所の様子がわかります。炭を使って加熱する小さなコンロや水をくむ井戸などは、伝統的な暮らしを守っている地域ではまだ残されていますが、都市部の家庭では見られなくなっており、ままごと道具が昔の姿を伝えています。

お茶道具と果物を盛った高杯
アジアのままごと道具風景

世界のままごと道具――アメリカ

ヨーロッパをはじめ、アジア、アフリカ地域からの多くの移民で成り立っている大陸だけにままごと道具に登場する食器の種類も多様です。ヤシの葉や棕櫚の繊維で編まれた素朴な器や籠が見どころ。各町の日曜市で売られていたものです。

中南米のままごと道具展示風景
中南米のままごと道具展示風景
マーケットから収集したままごと道具(メキシコ・メキシコ州/1980年代)

世界のままごと道具――中近東・アフリカ

イスラム教を信仰する中近東から北アフリカにかけての国々では、戒律で飲酒が禁じられていることもあり、喫茶の文化が古くから発達しています。アフリカ大陸からは、美しいスタイルの茶器をまねて作られたままごと道具を紹介します。真鍮や銅など金属製の玩具が目立つ一方、木を削り、土をこねて作られた素朴な調理用具も特徴を示しています。

陶器のティーセット(チュニジア/1990年代)
エスファハーンの銅細工のままごと道具(イラン/1990年代)

世界のままごと道具――ヨーロッパ

ドールハウスが早くから発達したヨーロッパでは、人形たちのための小さな調理用具なども各地で作られてきました。また、農村部に伝わる郷土玩具の中には、アジアなどとも共通する土製や木製、植物編みの素朴な茶道具やテーブルウェアなどの玩具も見られ、ヨーロッパのままごと道具は、近代性と民族性が同居した楽しい世界です。

食器棚と調理道具セット(イタリア・セヴィ社/1980年代)
東欧のままごと道具展示風景


日本のままごと道具――雛の勝手道具

京阪地方の雛飾りには、大名道具を小さく作ったような黒漆塗り金蒔絵の諸道具に加え、白木の勝手道具  やかまどなど、日常の暮らしを映した節句だけのままごと道具が登場しました。また、女の子たちは友達を招き、ミニチュアの食器で雛料理を楽しみました。明治・大正・昭和時代、京阪地方の雛まつりを彩った勝手道具やかまど、雛料理の小さな器を紹介します。

雛の勝手道具展示風景
雛の勝手道具(大正時代)


ままごと道具の移り変わり

子どもの世界は、最新の家庭用品を取り入れることに敏感です。水道、冷蔵庫、ガスレンジ、オーブン……ままごと道具の台所は時代を映しながら発展していきます。ま  た、木や土、紙を使ったものから、セルロイド、アルミ、ブリキ、プラスチック…と、その素材にも変化が見られます。明治、大正、昭和、平成……と、時代を追ってままごと道具の移り変わりを追いかけます。

明治~大正時代

陶器や木で作られた茶道具や台所道具のいろいろを。百年前の少女たちも、ままごと道具で母親の真似ごとをして遊びながら、将来、良き主婦になるための所作を身につけていったのでしょう。近代化が進むにつれ、ブリキをはじめとする金属製の道具も登場し、最新の素材に子どもたちの注目が集まりました。

陶器のかまど(京都・伏見焼/明治時代)
大正~昭和初期のままごと道具展示風景

昭和初期~10年代

暮らしの中に西洋文化の影響が表われた大正から昭和初期には、洋風食器や調理道具を真似たままごと道具が都市部で人気を集めます。ところが、太平洋戦争が激しくなる昭和10年代後半になると、材料統制を受けて金属製の玩具の製造が禁止されてしまいます。ブリキ製に続いて、アルミ製のままごと道具も作れなくなってしまいます。

昭和10年代・20年代のままごと道具展示風景
ちゃぶ台のあるままごと道具セット(昭和初期)

昭和20年代

戦後復興期に入ると、ブリキやアルミなど、 金属製のままごと道具がまた盛んに作られ始めます。まな板に包丁、コンロ、釜や鍋…とセットされる内容は戦前と変わりありませんが、フライパンやナイフ、スプーン、フォークなども目だってきます。昭和27~28年頃、プラスチック製のままごと道具が登場し、時代の人気をさらいました。

ままごとの台所(昭和20年代)

昭和30年代

ブリキ製のままごと道具とともに「新しい、きれい、軽い、割れない」をうたうプラスチック製が一般化する時代です。さらに高度経済成長期に入り、システム・キッチンや最新式の電気ガマなどが登場して、ままごと道具の世界も近代化していきます。

昭和30年代のままごと道具展示風景

昭和40年代

昭和40年代は、リカちゃん人形に代表されるファッション・ドールが人気を博しましたが、人気キャラクターがままごと道具にも影響を与えます。また、日本人の暮らし向きが西洋化するのに呼応して、ままごと道具もちゃぶ台文化からダイニングテーブル文化へと一挙に変貌をとげます。この頃に登場した“ママレンジ”は、家庭用電源を使って本物のケーキを焼けるままごと道具で、少女たちの憧れの的となりました。

昭和40~50年代のままごと道具展示風景

昭和後期から平成時代

プラスチック製ままごと道具の全盛時代です。小さなまな板まの上で包丁をトントン叩いたまねごと遊びに、マジックテープでとめた野菜や果物をナイフでグジャリと切り落とす遊びが加わりました。一方、平成後期には本格的な料理が作れる「クッキング・トーイ」が玩具のジャンルとして定着し、子どもたちが家族と一緒になって料理に親しむ商品が人気を博します。生活文化の変化や教育玩具に対する新しい考え方などに影響を受け、ままごと道具はずいぶん様変わりしたように見えます。けれど、昔も今も、家事をまねることに夢中になる子どもの心に変わりはありません。