「ふるさとの節句人形」 | 日本玩具博物館

日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

Language

展示・イベント案内

exhibition
特別展

初夏から初秋の特別展 「ふるさとの節句人形」

会期
2026年4月25日(土) 2026年10月18日(日)
会場
6号館

「節」というのは、古代中国の暦法で定められた季節の変わり目を表します。陰陽道の考え方では、奇数の重なる日は良くないことが起きるとされ、それを避けるための行事が“節供(のちに節句)”となりました。季節の変わり目に当たって神に供物を捧げ、生命力あふれる植物の力で邪気を払って身の健康を保つこと――桃の節句の桃花酒や端午の節句の菖蒲酒のように――が節句(供)本来の意味だったと思われます。これが日本の貴族社会に伝わり、私たちの節句行事の基礎が形成されました。

端午の節句の「軒菖蒲」

元旦(がんたん=1月1日)、上巳(じょうし=3月3日)、端午(たんご=5月5日)、七夕(たなばた=7月7日)、重陽(ちょうよう=9月9日)が季節の節目と考えられてきましたが、江戸時代に入ると、一年の始まりに当たる元旦は、特別な祝儀を行う別格の日となり、代わりに人日(じんじつ=1月7日/七草の節句)が加わって「五節句」と位置づけられました。
中国から日本に伝わった節句行事は歴史を経る中で、農耕儀礼や祖霊信仰、人形を愛する文化などと混交し、節句に子どもの成長と幸福を祈るという日本独自の性格をプラスすることで、他のアジア諸国には例をみない節句文化を発展させてきました。本展では、「上巳」、「端午」、「七夕」を取り上げ、それぞれの行事にかつて登場した郷土の人形や玩具を展示します。日本の節句飾りの世界の多様性に触れていただき、祖先が育んできた子ども観や宗教観、美意識をみつめる機会としていただければ幸いです。

                               展示総数  約500点

桃の節句*ふるさとの雛■

雛人形につながる人形の起源は、遠く平安時代の貴族社会で日常的に行われていた“ひゐな遊び”(「ひゐな」と呼ばれる人形を用いた遊び)にさかのぼりますが、3月3日の上巳(じょうし)の節供(句)に合わせて雛人形や雛道具を贈ったり、また、この日に女性たちがその人形で遊んだり、飾り付けたりするようになったのは江戸時代に入ってからのことです。衣装を着せた座り姿の雛人形は、江戸時代中頃から次第に豪華なものとなり、京阪と江戸を中心に、雛を取り巻く産業も発達していきました。

日本各地の裕福な町々では、江戸や京阪で飾られる雛人形に影響を受けながらも、幕末頃から地域独自の雛飾りを発展させていきます。江戸や京阪の人形屋から安価な頭を取り寄せて、地元で衣装を着付けたものが飾られ、また、城下町を中心に押絵の人形が雛飾りとして歓迎された時代もありました。一方、農村部では、粘土をこねて焼成する土雛が雛段を賑やかに彩りました。

犬山土人形・内裏雛(愛知県犬山市/明治時代)

このコーナーでは、幕末期に日本各地の農村部などで作られ始めた土雛や地方都市で製作された押絵雛を中心に展示します。

●ふるさとの土雛・張り子雛・木彫雛・・・江戸時代後期、衣装雛が大都市部の裕福な人々のものとして発展を遂げて行く一方、地方の町々では、身近にある安価な材料を用い、自給自足的に雛人形が作られました。反故の紙を利用した張り子製、家具類製作時にでる木屑に糊を混ぜた練り物製なども知られていますが、全国の農村部では、身近で得られる良質の粘土を熟泥して型抜きで“土雛”が量産される前の個性的な人形で、日本の雛人形史上に独特の魅力を放っています。ここでは、全国の郷土人形の産地に遺された土雛や張り子雛、木彫雛を地域ごとに紹介します。

兵庫県下に伝わる土雛飾り—丹波市の稲畑土人形・養父市の葛畑土人形(明治末~昭和初期)

●ふるさとの押絵雛・・・元絵を厚紙にうつした型紙を部分ごとに切り取り、そこに綿をのせて布で包んだ部品を組み合わせて作る「押絵」の人形は、江戸時代後期には、都市部の武家や町家
の女性に親しまていました。それが、幕末から明治時代に入ると、地方の城下町にも広がりをみせ、女性たちが教養として、また暮らしの楽しみとして様々な押絵の人形を作るようになります。 明治・大正時代、豪華な段飾りや御殿飾りが届かない地方では、昔話や民話、歌舞伎などを題材に押絵が作られ、初節句の祝いに贈り合う風習も見られました。ここでは、大分県日田市の「おきあげ」、岩手県奥州市水沢の「くくり雛」、山形や秋田、長野県松本市の「押絵雛」、また押絵雛の掛け軸飾りなどを紹介します。



端午の節句*ふるさとの武者人形■ 

端午の節句は「菖蒲の節供」と言われるとおり、古くから菖蒲や蓬(よもぎ)が盛んに飾られましたが、これは香の強い植物に辟邪の力があると信じられたためです。また端午の頃は、農耕暦の中でも、田植えを行う重要な季節。鯉のぼりなどの大きな幟(のぼり)には、田に訪れる神を迎える招ぎ代(おぎしろ)としての意味を見ることもできます。中世に入ると、武家が興隆するなかで、菖蒲が「尚武(しょうぶ=武を貴ぶの意)」の語音と通じることから、菖蒲の節句は男児の祝儀と結びつき、武家の将来を祝福する行事へと展開します。それが、江戸時代、男児の出世と幸福を願う庶民の節句まつりへと発展していくのです。

江戸時代前期の頃は、家の門口の菖蒲兜、毛槍、長刀などの武具や幟を勇ましく立てる屋外各飾りが主流でした。そこへ中期以降、武者人形などのつくり物を室内に飾る風習も加わります。後期には、屋外・室内飾りともに大型化し、都市の富裕階級は豪華な飾り付で家の権勢を競い合いました。今日節句飾りは、江戸時代に比べずいぶん小型になっていますが、その様式化された飾り物の中には、古い時代の華やかな屋外飾りの要素をうかがうことも出来ます。

このコーナーでは、江戸時代末期から明治時代にかけて、大都市部の武者姿の衣装人形に影響を受けて、庶民の間に人気を博した人形飾り――土や紙など身近な素材を利用して量産され、かつての農村の五月を彩った金太郎、武者、張子の虎等をご紹介します。これらは、土地土地に独特な着想で製作され、武者飾りが画一化する前の個性的な人形で、日本の人形史上に魅力を放っています。加えて、戦前、庶民の間で人気を博した端午の掛け軸や鯉のぼりなどを合わせて明治・大正・昭和の素朴な節句飾りをしのびます。

大浜土人形・桶狭間の義元と信長(愛知県碧南市/昭和中期)

金太郎・・・金太郎は相模の足柄山で山姥の子として生まれ、のちに源氏の武将、源頼光の四天王となった坂田金時の幼名。熊、鹿、猿などと相撲を好む金太郎は、全身が赤く、剛健な子どもの象徴として親しまれてきました。江戸時代末期になると、この土人形が全国各地で愛され、明治時代には、端午の節句人形の代表となりました。力強さの表現には子どもが丈夫に育つようにとの願いが、金太郎の全身が赤い表現には、疱瘡よけや悪病払いのまじないとしての意味が込められています

伏見土人形・金太郎(京都府京都市/明治時代)

●武者人形・・・神功皇后と武内宿禰、楠木正成、牛若丸と弁慶、太閤秀吉と加藤清正、和藤内など、和漢の歴史物語、芝居などに登場する英雄、豪傑などを人形化したもの。江戸初期には、飾り兜を他の武具類や幟とともに屋外に飾る風習がありましたが、この飾り兜が武者人形誕生の母体となりました。武者の土人形は、江戸末期から明治・大正・昭和初期を通じて、全国各地で人気を博しました。

起土人形・馬乗り武者(愛知県一宮市)と犬山土人形・加藤清正(愛知県犬山市)

●虎・・・端午の虎は邪気を払う霊獣として中国でも篤く信仰されている動物です。剛健で堂々とした虎の姿に、理想の男児像を託して、西日本を中心に、端午の虎飾りが流行しました。首ふり虎のほか、加藤清正の虎退治に因んだもの、『国性爺合戦』の和藤内と組み合わせたものなどが見られます。  

●掛け軸飾り・・掛け軸に、節句飾りの様子や武者絵などが描かれた掛け軸は、場所もとらず、比較的安価であるため、明治末期から昭和初期にかけて盛んに飾られました。かつての端午の節句飾りの様子や、当時の風俗を物語る資料としても貴重です。


■七夕*ふるさとの七夕飾り■

七夕の夜、短冊に願い事を書いて笹竹につるし、屋外に立てて天の川をのぞむ習俗は、今でも日本地に伝承され、私たちは、七夕といえば、サラサラと鳴る笹竹の飾りや七夕の棚に供えた胡瓜や茄子の動物、朝一番で芋の葉に浮かぶ露をとって墨をすり、短冊に願い事を認めたことなどを想い起こします。
七夕もまた古代中国で発展した初秋の儀礼。天の二星(牽牛星・織女星)に織物の上達を祈るもので「乞巧奠(きっこうでん)」と呼ばれていました。それが奈良時代の宮中に伝わり、やがて、祖霊祭としての「盆行事」や、実りの秋を前にした「豊作祈願」などとも結びつき、日本独自の発達を遂げていきます。織物に加え、和歌や書、管絃、立花などの巧を祈る芸能祭のような色合いを帯びるのは室町時代のこと。私たちが今日、知るところの笹飾りが盛んに行われるようになるのは、行事の担い手が寺子屋の子ども達の手に移ってからのことです。

松本の着物掛け型七夕人形(長野県松本市/昭和中期)

高度経済成長期を境に一気に廃れ、家庭における七夕行事は今ではあまり見られなくなりましたが、このコーナーでは、私たちが暮らす播磨地方に伝わる七夕飾り――塩田で栄えた播磨灘沿岸や銀山町・生野の七夕人形(紙衣)や宮城県仙台市の紙衣、長野県松本市に伝わる様々な形態の七夕人形、富山県黒部市の七夕流し行事に登場する七夕姉さま、さらに新潟県根知谷地方の七夕綱行事にみられる花嫁行列の人形などを展示し、日本の七夕の豊かな世界を垣間見ていきます。


********************
前の特別展 → 春の特別展「雛まつり~まちの雛・ふるさとの雛~」