「ミニチュアのボンネットバス・チバ」 | 日本玩具博物館

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今月のおもちゃ

Toys of this month
2023年9月

「ミニチュアのボンネットバス・チバ」

  • 1980~90年代
  • コロンビア・ウイラ県ピタリト/土・針金
ミニチュアのチバ

南米大陸北西部に位置するコロンビアは、北にカリブ海、西に大平洋を臨む海岸地方、内陸部にはアンデスの山地やアマゾンの熱帯雨林、リャノと呼ばれる熱帯草原…と多様な自然環境を有し、先住民、ヨーロッパからの入植者、アフリカやアジア、中東からの移民など、様々な民族が様々な文化を突き合わせる複雑で彩り豊かな国です。
コロンビアの首都ボゴタの民芸店などでも売られるコロンビアの民間工芸に、手ひねりで作られる陶器のミニチュアがあります。手のひらにのるほどの屋台には、野菜や果物、生活雑貨や食器などがぎっしりと並べられ、屋台をつなげていくと、小さなメルカルド(市場)が出来上がります。マグダレーナ川でしょうか? カウカ川でしょうか? 水上を行くボートからはこぼれ落ちそうなほど、魚や果物が積み込まれていて、なんと豊かな風景でしょう。

そのようなミニチュア陶芸のなかに、「チバ(Chiva)」と呼ばれる乗り物があります。チバの車内では乗客がくつろいでいますが、屋根の上には食物や雑貨、コーヒー豆を詰めた袋、木材や瓦など、ありとあらゆるもの(多くは商品)が載せられ、家畜や人も乗っています。なんとも賑やかで、生命感豊かなチバ。

チバ(スペイン語で山羊の意味)は、エスカレラ(梯子とか階段とかの意味)とも呼ばれ、コロンビアの地方交通に欠かせない乗り物として、多くの人々に親しまれてきました。バスは国旗の色である黄、青、赤を基調にカラフルにコーティングされ、ほとんどの車両にはルーフ・ラックへ上る梯子がかけられています。チバが、コロンビアの北西部、アンデスに位置するアンティオキア県に初めて導入されたのは20世紀初頭。それまで、 この地域の輸送には馬車が活躍していました。山地や農地の大変な道路事情をものともせずに大量の貨物と乗客の両方を積んで走るチバの頑丈さと華やかさは、コロンビアの田舎へもたらされた近代文明の象徴でもあったそうです。今では、観光にも使用され、国境をこえ、周辺の国々でも愛されています。

ミニチュアのチバ、後ろ側から

ミニチュアのチバの産地はコロンビア南西部ウイラ県ピタリトです。マグダレーナ川の上流に位置し、コーヒー豆の一大産地として知られています。ピタリトのチバは、バスの本体を製作する職人と人物や積載物を手ひねりで作る職人との協働によって出来上がります。バスのフォルムの堅牢でつややかなこと! 屋根に座る人物たちの表情はなんと豊かなことでしょう! 手の三本指にのる程度の小さなチバに満載された品々からコロンビアの暮らしの風景が立ち上がってくるようです。
コロンビアのミニチュア工芸は、現在開催中の「メキシコと中南米の民芸玩具展」でご紹介しています。

(学芸員・尾崎織女)