今月のおもちゃ
Toys of this month「アルマジロの民芸玩具」
●6号館の特別展「メキシコと中南米の民芸玩具」のなかで、アリクイやカピバラ、ハチドリ、ツーカン、インコなどと並んで、どちらの地域にも繰り返し登場してくるのがアルマジロです。アルマジロは北米南部から中南米にかけて生息し、地域によってはその肉を食用として、また硬い甲羅を共鳴器として弦楽器や打楽器が作られ、他の生活道具にも用いられてきたため、メキシコやチリ、パラグアイなどでは「アルマディーロ」、ブラジルでは「タツー」、ペルーやボリビアでは「キルキンチョ」などとも呼ばれて、古くから親しまれてきました。
●アルマジロには、3~4本の帯をもつブラジル固有種「ミツオビアルマジロ」や、主にアンデス地方に生息し、6~8本の帯をもつ「ムツオビアルマジロ」、北米南東部から南米にかけて広く生息し、8~10本の帯と長い尻尾をもつ「ココノオビアルマジロ」、南米北東部から南東部にかけて生息する「オオアルマジロ」(全長50~55㎝)、そして、アルゼンチンの固有種「ヒメアルマジロ」などの種類があるそうです。
●上の写真は、ブラジルのアルマジロ「タツー」です。首や尾をふる仕掛けをもつもの、木彫焼き模様で静かな味わいのあるもの、素朴な手ひねりの造形にポップな文様をまとうものなど、いずれのタツーも生命感にあふれる魅力的な造形です。この3体のタツ―をよくみると、胴部に4本ほどの帯が作られており、これらのモデルがブラジルの固有種「ミツオビアルマジロ」であることがわかります。ミツオビアルマジロだけが、身の危険を感じたときに、甲羅のなかに頭や足、尻尾を収めてボール状に丸くなる習性があるそうですが、1995年、ブラジル3都市(サンパウロ、クリチーバ、リオデジャネイロ)で「日本の伝統玩具展」を開催した折、滞在していたリオデジャネイロ郊外の村で子どもたちが丸くなったタツ―(ミツオビアルマジロ)をなでたり、そっと転がしたりして遊んでいるところを見かけました。ーーーこうして親しんでいればこそ、民芸玩具の細部にも、タツーへの細やかな観察眼が生きているですね。
●ブラジルの民話絵本『ガラシとクルピラ』のなかに、アマゾン川のほとりに暮らす人々とアルマジロとの関わりが描かれています。ーーガラシ少年は、父さんたちのように狩りに出かけることを夢みていました。ある日、弓矢を持って、父さんたちの後をついていったガラシは、タツーの子どもを見つけて追いかけます。すると、どこからか不思議な生き物が現れ、ガラシは気を失ってしまいます。ガラシを気絶させたのは、動物たちを守る森の精霊「クルピラ」だったのです。また、父さんたちがお腹に子どもがいるタツーであることを知らずに捕まえて食べようとしていたときにも、クルピラが現れ、母タツーをさらっていきます。まだ小さいタツーや妊娠中のタツーを獲ることは森のおきてに反するのだと、ガラシ少年は学ぶのでしたーーー。
●この絵本において、ヴァンペレ―ラの描くタツーには帯がなく、大型であることから、ブラジルにも生息するオオアルマジロだと思われます。アマゾン川流域では食用とされ、甲羅や尾、爪などが揺りかごや生活道具にも利用されてきたといいますから、クルピラの伝説は人間の乱獲に対する戒めなのでしょう。
●下の写真は、メキシコ南部、チアパス州のアルマジロで、首と尾をふる楽しい仕掛け玩具です。帯がたくさん作られ、長い尻尾が強調されていることから、モデルはココノオビアルマジロでしょうか。おとなしく、人にも馴れるというアルマジロの愛らしい姿が楽しく造形されています。
●「メキシコと中南米の民芸玩具展」会場では、各地の民芸玩具のなかにアルマジロを探し、造形の違いや地域による特徴を楽しんでいただければと思います。
(学芸員・尾崎織女)