「トトラの船・バルサ」 | 日本玩具博物館

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今月のおもちゃ

Toys of this month
2021年8月

「トトラの船・バルサ」

  • 1970~80年代
  • ペルー・チチカカ湖上のウロス島/トトラ(カヤツリグサ科の植物)

人類は有史時代に入った頃にはすでに、移動や漁労の手段として小舟を使用していたといわれます。世界各地の民族が、それぞれが暮らす自然環境に適応して、遠い昔に作り始めた船には、丸太を結び合わせた筏(いかだ)状の船、葦などの植物の束を結び合わせた船、大木をくりぬいたもの、動物の皮袋を利用したもの、木の枠に樹皮や動物の皮をかぶせたものなどがあげられます。これらは、時代の経過や技術の発達につれて、使用されなくなったものも多いのですが、今も現役で航行している船もあります。

ペルーとボリビアにまたがるチチカカ湖は、標高3,810mの高地に位置し、インカ帝国発祥の伝説が語り継がれる神聖な湖です。湖上にはウロス島と総称される大小40ほどの島々が浮かんでいます。島には学校や病院、教会もあり、人々は食べ、眠り、働き、子育てをし、当たり前の日常生活を営んでいますが、島の地面は、カヤツリグサ科の植物「トトラ(totora)」を乾燥させ、幾重にも積み束ねて造り上げたもの。ウロス島は巨大な船のごとく、文字通り湖に浮かんでいるのです。
かつてスペインが侵攻してきたとき、湖周辺に住んでいたウル(Uru)や、ケチュア(Quechua)、アイマラ(Aymara)の人々は湖中へと逃れ、トトラで生活の場を築いていったと推測されています。ウロス島の人々は、時にトトラの瑞々しい根元を食べ、乾燥させたトトラを建材として家や船を造り、トトラを材料として玩具や工芸品を作ります。なにもかもがトトラ、トトラです!

トトラ製の船は、トトラを束ね、その束をさらに束ねて造り上げるもので、「バルサ(balsa)」と呼ばれます。島の人々にとっては湖上の移動や漁などに使われる生活の必需品。バルサをまねた玩具は、遊び相手として、島の子どもたちにトトラ船の造り方を伝えると同時に、チチカカ湖観光を楽しんだ人々が求めていく観光土産にもなっています。トトラの性質を知り尽くした人々の手が生み出す技術の確かさと素朴な美しさが小さな船からあふれてくるようです。

トトラの船玩具は、現在6号館で開催中の特別展「世界の船の造形」でご紹介しています。

(学芸員・尾崎織女)