「うぐいす笛(初音笛)」 | 日本玩具博物館

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今月のおもちゃ

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2026年3月

「うぐいす笛(初音笛)」

  • 大正~昭和中期
  • 日本各地/竹製

日本玩具博物館の庭では蠟梅は終わってしまいましたが、紅白の梅、万作、山茱萸などが木に花を咲かせていますので、ウグイスを招こうとうぐいす笛を吹き鳴らしたりする弥生三月です。うぐいす笛は「初音笛」とも呼ばれ、ウグイスのさえずりをまねるための小さな竹笛。竹筒の端を指で開閉しながら吹くことで音程を変化させ、ホーホケキョ、ケキョ、ケキョ、ケキョ・・・ホーーホケキョ♪♪などと鳴かせることができます。
江戸時代初期には、手飼いの鳥の声慣らしのため、また鳥寄せや芝居の擬音づくりにも使用されていたようですが、時代が下ると、子どもたちの手遊び笛としても全国に普及していきました。江戸時代後期、安永2(1773)年刊行の玩具絵本『江都二色』には、最初のページにうぐいす笛が描かれており、江戸市中で流行していたことがわかります(手桶のような形をした玩具がうぐいす笛です)。

『江都二色』(北尾重政画)に登場するうぐいす笛 「うぐいすは春 いもむしは秋なれや そのころころの時たがわざる」と大田南畝の狂歌が添えられています。「うぐいす笛」「芋虫ころころ」「のぼり」という三つの手遊び(玩具)が詠みこまれています。
『江都二色』と江戸時代型のうぐいす笛(大正時代頃/産地不明)

『江都二色』のうぐいす笛とよく似た形の玩具は、福島県会津若松に伝承されています。かつてこの地方では、正月の朝、「はつね~、はつね~」と竹製の「初音笛(うぐいす笛)」を売り歩く行商人がありました。小さな初音笛を買い求めた家々では、吹き鳴らした後、神棚にあげて新年を祝ったのだといいます。雪に覆われ、冬の長い土地に暮らす人々の、春を告げる鳥の声への愛着が感じられます。

会津若松の初音笛(昭和中期/福島県郡山市)


郷土の鳥笛といえば、デデッポウポウとのどかに鳴くキジバトの土笛、あるいはゴロスケホウホウとわびしげに鳴くフクロウの土笛を思い浮かべる方も多いことでしょう。青森県弘前の鳩笛や京都市伏見のふくろう笛をはじめとして、日本の郷土玩具の産地では、江戸時代後期頃から身近にいる鳥をかたどった土笛が地域色も豊かに数多く作られ、子どもの友ともなってきました。
こうした郷土の鳥笛を観察してみると、いずれも尾羽に吹き口があり、息を吹き込めば、ホウホウ、ポウポウと郷愁を帯びた中低音が鳴り響きます。ところが、ドイツやスウェーデン、ロシアなどのヨーロッパ地域、またメキシコやペルーなど中南米地域に伝承される鳥の土笛を集めてみると、少し様子が異なります。鳥の背中や胸に、一つ、二つ、三つ…と指孔が作られたものが多く、一つの指孔を開閉しながら吹き鳴らすと、カッコウと二音を奏でますし、複数の指孔を順番に開閉すると、音階が生まれてオカリナのように旋律を演奏できます。日本の郷土玩具の伝統的な鳥の土笛には、そのように楽器を志向したものはまず見当たらないのです。


医学者、角田忠信氏の脳科学的研究によると、日本人は鳥や虫の鳴く音を「声」といい、言語を司る左脳で受容するのだと。「テッペンカケタカ(ホトトギス)」「ショチュー イッパイ グイッ(センダイムシクイ)」「ツチクイ、ムシクイ、クチシーブイ!(ツバメ)」・・・などと、鳥のさえずりを言葉で❝聞きなす❞ところにも、そのことが表われているのでしょう。一方、広く世界の国々においては、音楽を司る右脳で鳥の音色をとらえる民族が圧倒的に多いといいますから、鳥の土笛における指孔の有無は、そんな自然音の受容の仕方の違いを提示しているのかもしれません。

うぐいす笛(昭和前期) 『江都二色』や会津若松の初音笛にうぐいすを付けたもので、うぐいすの造形は装飾で、発音には影響を与えるものではありませんが、戦後はこのような姿のうぐいす笛が一般化しました。


鳥の声を「ホーホケキョ」「コケコッコー」と言語化する日本人にあって、ウグイスの初音笛は、左脳的発音玩具といえるかもしれません。

(学芸員・尾崎織女)