今月のおもちゃ
Toys of this month「ぶんぶん独楽」
ぶんぶん独楽は、円形や楕円形の板片などに穴を開けて紐を通し、紐の両側を持って、回しながら音を出す簡単素朴な玩具です。子ども時代、ボタンの穴に紐を通してブーン、ブーンと回し遊び、その音の面白さと紐がゴムのような弾力をもってくる不思議さに夢中になった…という方も少なくないことでしょう。
日本では、古くは「松風独楽」の名で親しまれていました。松風とは、松林を風が通りつけるときの音をいい、寂しい海岸沿いの風景を連想させるもの、茶の湯においては、釜の湯がたぎる音を松風と表現したりもするそうです。遊び道具として愛されるぶんぶん独楽の音色を風流な音に結びつけたのは、江戸庶民の粋なセンスというべきでしょか。
では、「ぶんぶん独楽は日本にしか存在しない玩具か?」と問えば、それはとんでもない思いあがりです。ぶんぶん独楽は、非常に長い歴史をもった発音具で、古代ギリシャの時代から存在しました。そして、世界を見渡すとき、このぶんぶん独楽にはたくさんの兄弟姉妹があることにも驚かされます。
北アメリカのイヌイットやグリーンランドの人々においては、セイウチの牙やアザラシの骨などから、ぶんぶん独楽(ブザー)を作り、また、ブラジル・マッットグロッソ州に住むクイクロ族は、ヒョウタンの実殻などを円形に切り取ってこれを作りました。怖い獣を遠ざけたり、悪魔を追い払ったりする道具と考える民族があれば、また、病気の治療に使用する秘具と考える地域もあったようです。雑音性に満ちたこの不思議な音には、目に見えない邪気や悪霊の類を退散させる霊力があると考えたのでしょう。
ぶんぶん独楽は、いつ、どこの国で誕生したのでしょうか? あるいは同時多発的に世界各地で作られ始めたものなのでしょうか? また、まじないの道具であったぶんぶん独楽が、どのような過程で玩具の世界へと受け継がれたのでしょうか?
単純でありながら、秘密めいた音を立てるぶんぶん独楽―――、日本玩具博物館が興味をもって追いかけている玩具のひとつです。