今月のおもちゃ
Toys of this month「アラビアのミニチュア・茶器セット」
●アラビア半島やエジプト、北アフリカ地域のアラビア語を話す人々の国々では、戒律で飲酒が禁じられていることもあり、喫茶の文化が古くから発達しています。人々の心の交流に喫茶は欠かせないもので、アラビアの遊牧民であるベドウィンは、来訪者をコーヒーでもてなす文化を育んできました。エジプトの家庭においても茶器は大切にされ、それらのミニチュアもまた、装飾品として、家事を学ぶままごと道具として、古くから丁寧に作られてきました。
●先年、東京都港区でエジプト料理店を営むエジプト人店主に金属製のミニチュア茶器を見てもらいました。スレンダーな本体に長く細い注ぎ口をもつポットと取っ手のないシンプルなカップは、20世紀後半頃までエジプト各地で人気のあった茶器の形を映したものだと教わりました。真鍮や銀製、ガラス製の茶器もこのようなデザインがよく用いられていたようです。カップにはアラビア式のコーヒーが注がれます。沸騰した湯でコーヒーの粉を煮出すと、フィルターで濾すことはせず、濃い液をカップに注いで上澄みを飲みます。
●コーヒーの実が眠気覚ましや疲労回復、気分の癒しなどに効果があることを発見したのは、九世紀のエチオピアのヤギ飼いの少年であるとか、13世紀のモカ(イエメン共和国の都市)の神秘主義修道者であるとかいくつかの説がありますが、15世紀末ごろにはアラビアの国々で広く飲用が始まっていたようです。コーヒーの故郷ともいえるアラビア式コーヒーの香りを伝える小さな茶器セット。子どもたちは小さな手でコーヒーを注ぐ真似事をしながら、目の前の誰かと心を通わせる作法を学び育てていくのでしょう。
(学芸員・尾崎織女)