「カイ・ボイスンの動物玩具」 | 日本玩具博物館

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今月のおもちゃ

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2024年9月

「カイ・ボイスンの動物玩具」

  • 1980年代
  • デンマーク・コペンハーゲン/木(オーク・カエデ)

20世紀のデンマークを代表する美術工芸家のひとり、カイ・ボイスン(Kay Bojesen/1886-1958)は、食卓のナイフやフォーク、スプーンなど、カトラリーのデザインに優れた銀細工師であり、子ども用の家具や家庭用品、ジュエリー、そして玩具においても機能を重視した品を数多くデザインしました。
カイ・ボイスンの玩具は、オーク材のゾウ、オークとカエデ材のクマやウサギ、ブナ材の木馬、ダックスフント、チークとリンバ材によるモンキー、デンマーク王立警備隊の兵士などが有名です。木材の色や手触り、よく可動する手足(象の鼻も!)をもった動物たちのシンプルな造形は、大人にも子どもにも愛され、また遊び相手にも、インテリアにもなる汎用性の高さが魅力です。使えば使うほどに、また、傍に置く年月が重なるほどに持ち主は愛着を増し、いずれの品も堅牢であるため、大切に扱えば、祖父から父へ、父から子へ、子から孫へと、世代をこえて使い続けていけることでしょう。


カイ・ボイスンの木製玩具は、玩具界のみならず、美術工芸分野においても重要な位置を占め続けているのですが、彼はいったいどんな人なのでしょうか。―――デンマークの首都、コペンハーゲンで生まれ育ったカイ・ボイスンは、1906年、ジョージ・ジェンセンのもとで銀細工を学びはじめます。当時のヨーロッパに開花した美術運動❝アールヌーボー❞の影響を受け、自然物に取材した有機的な形状と装飾性に富んだ品々を作っていました。やがて、ジョージ・ジェンセンでの見習いを終えたカイは、ヨーロッパ各地を旅行して様々な思潮に触れ、1910年代に故郷へ帰還したときには、すでに機能主義的造形を求めるようになっていたようです。さらに、1919年、結婚して子どもを授かり、家庭を得たことが、彼のデザインに大きな影響を与えたといわれます。


カイが木製玩具をデザインし始めたのは、第一次世界大戦後の1922年(デンマークは中立国でした)のこと。 デンマーク職人協会が玩具コンテストを開催するのですが、そこで、カイ・ボイスンの作品は賞賛を受けて賞金を獲得し、銀細工師としての仕事に加え、玩具業界でのキャリアが始まります。
1931年からカイ・ボイスンは、優れたデンマーク・デザインを紹介することを目的として、展示ギャラリー「Den Permanente」プロジェクトにも心血を注ぎ、展示品の中にはカイがデザインした木製玩具も多く含まれていました。当時から、彼の玩具への人々の関心は高く、1935年に、カイがコペンハーゲンの町の一角に工房つきの店舗をオープンした日には、多くの人々が押しかけ、店の窓が割れるほど盛況だったと伝わります。

カイの木製玩具を代表する腕の長いモンキーが登場したのは1951年。はじめは子ども部屋のコート掛けとしてデザインされたものでした。モンキーのくるりと曲げた手がフックとなってどこにでもひっかかり、くるりと曲げた足がコート掛けになるです。発売後、約一ヶ月で600体ものモンキーが売れたということです。

 
1958年、残念ながらカイ・ボイスンはこの世を去りますが、彼のデザインは、ローゼンダール・デザイングループによって管理され、大切に受け継がれています。一人の美術工芸家がつくり上げたデザイン玩具が多くの人々の支持を得、時をこえて愛され続けることで、民族や一国の文化を象徴するものともなっていくのですね!
カイ・ボイスンの木製玩具は、4号館2階の常設展でご覧いただけます。

(学芸員・尾崎織女)