「カシュガルの叩き独楽(陀螺)」 | 日本玩具博物館

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今月のおもちゃ

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2025年1月

「カシュガルの叩き独楽(陀螺)」

  • 1990年代
  • 新疆ウイグル自治区カシュガル市/木

中国の独楽の始まりは非常に古く、山西省運城市夏県の新石器時代の遺跡から、四、五千年前のものとみられる石製の独楽が出土しています。それは側面がやや丸みを帯びた円錐形で、紐状にした樹木の皮などを棒の先に結びつけたムチによって回転を与え続ける〝叩き独楽〟と推測されています。紀元前二千年から千四百年のエジプトでも、円錐形の木製叩き独楽が出土しており、ムチで叩いて回す独楽は人類史の早い時期に登場していたと考えられます。

紀元前2000~1400年のエジプトの遺跡から出土した木製独楽の絵 『THE TOP』(D.W,GOULD著/1973刊行)より


我が国においては、2020年8月、古墳時代後期(6世紀後半~7世紀前半)の遺跡から木製独楽が出土しました。草津市教育委員会によると、見つかった独楽は、長さ約6㎝、直径約4.4㎝で、先端に直径約0.5㎝、高さ約0.3㎝の突起があり、祭祀に使用された可能性が指摘されています。現在のところ、日本最古とされるこの独楽も、形状から考えて叩き独楽ではないでしょうか。

さて、かつての中国において、コマの漢字は「独楽」と綴られることが多く、地域によって異なる呼び名もあったようですが、明代に親しまれ始めた「陀螺」が今では共通語です。「陀」は曲がりくねった、「螺」は巻き貝を意味しており、実際、中国の独楽には巻き貝に似た造形が目立ちます。
新疆ウイグル自治区カシュガル市に伝わる陀螺も、円錐形がくびれた巻き貝のような形状で、ヤナギ科の樹木から作られています。木地師たちはろくろを使っていくつもの陀螺をつなげて挽き、切り離した後、緑、赤、桃、黄、金で彩色して仕上げます。

木工ろくろでいくつもの陀螺をつなげて挽き、切り離して一つ一つ形が整えられます

ウイグル族の子どもたちは紐をつけた木の棒をムチとして、陀螺の胴部を叩いて回転を与え、回る時間の長さを競い合います。寒い冬には、身体がどんどん温まってくることでしょう。

『中国民衆玩具』((当館学芸員・尾崎織女著/高見知香写真/軸原ヨウスケ企画デザイン 大福書林・2022年)の製作に当たり、井上館長にカシュガルの陀螺を回してもらいました

カシュガルは、タクラマカン砂漠の西端に位置し、古くからシルクロードの要衝として栄えたオアシス都市であり、イスラム文化の拠点となる町のひとつでもありました。陀螺のユニークな形と金彩をともなう模様付けには、東西文化が交流する土地に暮らしてきたウイグル族の民族的風格がよく表れています。

(学芸員・尾崎織女)