「ステンレスのままごと道具」 | 日本玩具博物館

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今月のおもちゃ

Toys of this month
2026年9月

「ステンレスのままごと道具」

  • 1990年代
  • インド・マハーラーシュトラ州ムンバイ/ステンレス

スープや煮物を作る鍋、小麦パン生地を収める容器、料理を盛り付ける皿や碗……、ピカピカ光るステンレス製の様々な調理具や食器が同じくステンレス製の食器棚に収められています。食器棚のサイズは、高さ 29㎝、幅19㎝、奥行8㎝。これはインドの子どもたちのままごと道具で、パッケージには、「Baby Kitchen Stand」とあり、産地はマハーラーシュトラ州ムンバイの「PRI-PAN PRODUCTS」です。子どもたちは人形を抱きしめ、小さな食器を手に台所仕事のまねごとをして遊ぶのでしょう。

ままごと道具「Baby Kitchen Stand 」(ステンレスの食器棚)

インドの食卓とえいば、きらきら輝く金属製の器に様々な料理が盛り付けられた様子を想い浮かべます。実際に、北インドでも南インドでも、あるいはネパールなどでも、一般家庭では、台所用品として、陶磁器やプラスチックはほとんど見ることはなく、かつては真鍮や銅、1970年代以降はステンレス製の調理具や容器が用いられています。日本では、「ターリー」と呼ばれる真鍮やステンレス製の円形大皿にロティ(無発酵のパン)やナン(発酵パン)やライス、そして、真鍮やアルミ、ステンレス製などの小鉢「カトリ」にスープやカレー、チキン、ピクルス、ヨーグルトなどを盛り、全品を一度にサーブするインドやネパール料理のレストランが多くありますので、金属器に親しんでおられる方々も少なくないことでしょう。

アジアンエスニックレストランMAYAの金属器とインド・ネパール料理


下の画像は、2002年、当館の学芸スタッフ・井上(伊)がインド南部、ケーララ州コーチン(=コーチ)の家庭を訪ねた折に撮影したもので、台所にはステンレスやアルミニウムなどの調理具や容器、中には、今回、紹介しているままごと道具にそっくりの食器棚も見えます。画像ではサイズ感がわかりにくいのですが、玩具ではなく、これは間違いなく人間サイズの食器棚です。

インド南部・ケーララ州コーチンの家庭の台所(2002年/撮影:井上伊都子)

ところで、インドの台所では、なぜこのように金属器が好んで用いられるでしょうか。ヒンドゥー文化において、清浄と不浄の区分は非常に重要です(右手の左手の使い分けなど)。年間を通して高温多湿な環境では細菌が繁殖しやすいため、乾燥しにくく、匂いや色が付着しやすい陶器より、清浄を保ちやすい金属製の容器が古くから好まれていたようです。(あるいはバナナの葉や月桃の葉など、使い捨てられる自然物も使われてきました。)
一方、インドで広く信仰を受ける火の神「アグニ」は浄化や変化を司ります。金属は、鉱石から強烈な火力によって取り出されるものであることから、アグニの手で浄化された素材と考えられたのではないでしょうか。

インドでは、かつての台所道具を模した石製のままごと道具も見られましたが、1980年代以降は、ステンレス製のままごと道具セットも多く作られ、各地で販売されています。

ステンレスのままごと道具セット Sunny toys製/1990年代

このように、ままごと道具は製作地の台所や食卓の様子を凝縮し、時代の流行にも敏感であるため、各地生活文化を知る楽しい窓口ともなるのです。

(学芸員・尾崎織女)