日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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今月のおもちゃ

Toys of this month
2021年6月

「ンガトゥ(タパクロス)の人形」

  • 1980年代
  • トンガ/タパクロス・ハイビスカスの繊維

南太平洋に浮かぶトンガは、百七十もの島から成り、周囲をエメラルドグリーンの海に囲まれた熱帯の王国。暮らしの必需品の多くが、身近に生育する植物を材料として伝統的な手法で作られています。

島々では古くから「タパクロス」と総称される樹皮布が用いられてきましたが、トンガのタパクロスは「ンガトゥ(ngatu)」と呼ばれます。ヒアポ(クワ科の木)の内側の樹皮をマレット(木の道具)でトントン、トントン叩いてなめしていくそうで、ンガトゥを作る村では、女性たちが樹皮を打つマレットの音が、一日中、リズミカルに響いているといいます。


トンガの民族衣装をまとったこの人形は、ンガトゥを縫って詰め物をしたぬいぐるみで、伝統のうろこ文様を天然染料で染めたンガトゥのドレスを着ています。また、スカートの上に巻く腰蓑は、ハイビスカスの繊維から作る「ファウ」を裂いたもの。人形の腕にはひも状に編んだファウ、髪にもダークグレーに染めたファウが使用され、人形まるごと天然素材なのです。
初めてこの人形を手にとったとき、軽やかでさわさわとした手触りとともに、南の島の乾いた風が吹いてくるような心地よさと懐かしさを感じました。
その理由は植物素材のもつ天然色、それから人形の首元を飾るジュズダマでしょうか。ジュズダマは、日本の子どもたちがこれを首飾りに仕立てて楽しんできましたが、太平洋の島々でも子どもたちの遊びに使われる素材だと聞きます。

太陽のような目や三日月のような口の表現が魅力的。素朴さのなかに南の島の手工芸の技が詰め込まれ、トンガの自然を感じさせる人形です。

(学芸員・尾崎織女)