日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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今月のおもちゃ

Toys of this month
2022年5月

「犬山寂光院の紙つばめ」

  • 1980~90年代
  • 愛知県犬山市/紙・経木・ブリキ

家々の軒に巣をかけたツバメたちが子育てに忙しく飛び交う季節です。稲作を行うアジアの国々において、ツバメは農作物に害を与える昆虫を食べてくれる益鳥として大事に扱われ、人家の傍でつがいが揃って子育てを行う様子に接してきた人々は、愛情鳥と呼んで親しんできました。
日本の郷土玩具の中にもツバメを題材にしたものがいくつか見られますが、そのなかのひとつに、愛知県犬山市、継鹿尾山の中腹にある寂光院で授与される「紙つばめ」があります。

ツバメの頭から尾筒に向かって竹串を通し、二枚の経木製尾羽を付けたもので、風を受けると、尾羽がくるくる回転し、キィキィ、キィキィと鳴きながら飛翔します。針金のくちばしが、竹串の先につけられたブリキ製の受け皿に擦れて鳴き声を立てる仕組みです。これは、かつて日本各地の駄菓子屋で売られていた「尾舞鳥」にそっくり。下の画像は、昭和20年代初めころの尾舞鳥で、当時、盛んに遊ばれた世代の方々には懐かしく思われることでしょう。尾羽の回転につれて、鳥の胸下のブリキ製円板に、尾羽軸から伸びるブリキ片が擦れて音を立てる仕組みは紙つばめと同じです。これは、中国の同種の玩具の影響を受けて創案されたものと伝わります。

駄菓子屋で売られた「尾舞鳥」(昭和20年代)

さて、郷土玩具の紙つばめは、田の虫を除けるまじないとして、寂光院の観音様の縁日で売られ、これを求めた人々は、田の畦などに立てた棒にくくり付けて豊かな実りを願ったといいます。農作に益をもたらすつばめを観音様の使いとみなしたためでしょう。郷土玩具愛好家にとってのバイブル、武井武雄著の『日本郷土玩具』(昭和5年刊)にも掲載される古い玩具ですが、一度、廃絶。お隣町の方によって復刻され、戦前とは少し形が変わっていますが、今も同院で授与されています。

青空を飛び交うつばめたちへの親しみに溢れ、農村に暮らす人々の心情を受け継ぐ懐かしい授与玩具であり、一方、近代的な素材であるブリキが使われているところには郷土玩具の世界から抜け出した新鮮さがあります。空にかざせば、キィキィと鳴きながら回転するつばめの動きに、初夏の風がより心地よく感じられます。

(学芸員・尾崎織女)