日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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今月のおもちゃ

Toys of this month
2022年6月

「seviのミニチュアキッチン」

  • 1980年代
  • イタリア・ドロミテ地方(sevi社製)/木

高さ約25㎝、間口約70㎝の木製のミニチュアキッチン―――その左右の壁にはやわらかな彩りの小さな食器がぎっしり収められた棚、中央の壁には加熱調理用大型コンロと調理器具、さらに丁寧に作られた小さな調理具が掛け飾られていて可愛らしさ満載! 

ヨーロッパの「ドールハウス」といえば、現物の12分の1の大きさに決められていますが、このキッチンは全体の縮尺率が厳密には整えられてはおらず、食器棚にお皿やカップ、壺の色を揃えて並べ飾ったり、調理台の上で食材を刻み、コンロに鍋をかけてスープを作る真似事をしたり……、そんな子どもたちのままごと遊びにも対応できるサイズです。どの道具も器もろくろ挽きで表面を滑らかに成形され、優しい彩りに仕上げられています。組み立て式になっており、収納時には木製のビスで設置した道具や家具を床や壁からから外し、壁を平面に畳んでコンパクトになるので、セッティングはもちろん、片付けも遊びの一環として楽しめます。

このミニチュアキッチンの製作者はイタリアのセヴィ社で、1980年代初頭の作。日本玩具博物館では、世界の玩具収集を開始した1979年より、セヴィ社の玩具に注目してきました。紐をひくと手足をバタバタさせるジャンピング・ジャック、丸い形の動物車、愛らしいクリスマスの天使たち、平行棒を回転するピエロ、手のひらの中に収まる小さな町作り積み木………。セヴィの玩具に囲まれていると、メルヘンの世界に誘われていくようです。

セヴィ(Sevi)社は、1831年、ジョセフ・アントン・セノネール(Josef Anton Senoner)によってドロミテ渓谷の小さな村、オルテッセに設立されました。雪に閉ざされる冬季には農民たちの木彫りが盛んな土地柄で、その技術がセヴィの玩具作りの基礎となっていました。社名は、彼の息子ヴィンゼンツ・セノネール(Senoner Vinzenz)に由来しています。
セヴィが設立された頃、この地方はオーストリア領に属していたため、玩具のデザインには、オーストリアやドイツなど、中部ヨーロッパの木製玩具に通じる雰囲気が感じられます。始まりのころは一点一点、手彫りでの製作が行われていました。やがて、ろくろによって丸いフォルムの作品が量産されるようになってからも、手作りの温かさと近代性の調和がとれた玩具作りが行われ、イタリアだけでなく、ヨーロッパ各地で愛されていました。日本には、1970年代末より、子ども服メーカー、株式会社ファミリア(兵庫県神戸市)によって輸入され、幅広く紹介がなされていましたので、ファンも多く、懐かしく思われる方もいらっしゃることでしょう。1990年代に入ると、セヴィ社は布製玩具や著名名デザイナーたちとのライセンス・ビジネスにも意欲をみせ、世界的な展開を試みましたが、残念なことに、経営的な諸事情によって社名を他社に譲渡し、1999年、同地における玩具製作を中止してしまいました。

材料にはブナなどの間伐材を、絵の具には有機的な顔料を、パッケージには再生紙を使用するなど、地球環境に配慮するモノづくりの精神と、玩具を使う子どもたちに対するセヴィの誠実な姿勢は、このミニチュアキッチンの隅々に満ち溢れています。

(学芸員・尾崎織女)