今月のおもちゃ
Toys of this month「白溝鎮の陶模子」
*日本の戦前戦後の玩具にも「粘土型」があり、子ども時代に遊ばれた記憶をもつ方々もいらっしゃることでしょう。中国の河北省や山東省、江蘇省などでは「陶模子」と呼ばれる泥粘土型が作られ、子どもたちの玩具として親しまれてきました。陶模子は図柄入りの粘土型のこと。泥粘土をポンと押し付けて陶模子から外すと、泥粘土の上に絵柄が現れる楽しいものです。円形で平らに成形された陶模子の直径は、4~5㎝の小型と6~7㎝の大型があり、軒瓦の模様のようにみえます。
*河北省保定市高碑店県級市(旧新城県)白溝鎮で焼かれる「陶模子」は中国民間玩具の世界ではよく知られています。陶模子を作るには、まず円形の木の板に図柄を彫り、そこに泥粘土を押し当てて型取りをします。図案の型がしっかりついた円形の泥模子を乾燥させた後、燃料となる大鋸屑(おがくず)や高粱(コーリャン)殻の上にそれらを並べ、また燃料、泥模子、燃料、泥模子…と層状に積み上げて、全体を窯のごとく泥粘土で固めて焼成するようです。
*陶模子は泥饅頭を作るままごと遊びに使われます。黄土地帯の土は細やかで粘り気があるので、泥饅頭作りに最適。陶模子の図柄は、芝居の登場人物、鳥や動物、植物や野菜、果物、器物、風景など非常に多彩で、500種類以上あると言われます。陽刻と陰刻があり、いずれの図柄も単純化され、のびやかな線で対象の特徴をよくとらえています。
*陶模子を集めてみると、世界の事物が小さな円の中に一つ一つ凝縮されたように感じられます。農村の子どもたちは、菓子作りをしているような気持ちで楽しく遊びながら、様々な絵柄を通して、広い世界へ興味の扉を開いていたことでしょう。また泥粘土の性質を覚え、手先を上手に使う練習にもなったに違いありません。1940年代ころまでは、子どもの遊び場に天秤棒を担いだ陶模子売りがやってきていたといいます。
*『中国民衆玩具ー日本玩具博物館コレクション』(当館学芸員著・高見知香写真・軸原ヨウスケ企画デザイン/大福書林・2022年7月刊行)の制作に当たり、写真撮影のために、子どもたちに陶模子を使って遊んでもらいました。陶模子(型)に泥粘土を押し付け、そこからはずしてみる瞬間のドキドキする様子と、きれいな模様が現れたときの嬉しそうな笑顔!!「もっともっといろんな陶模子を試してみたい!」――子どもたちはそう言って陶模子をなかな放さず、いつまでも遊んでいたい気持ちにさせる泥饅頭作りの楽しさがよく伝わってきました。
*6号館で開催中の夏秋の特別展「中国民衆玩具の世界」では、河北省保定市白溝鎮の資料と山東省浜州市の資料を展示しています。
(学芸員・尾崎織女)