今月のおもちゃ
Toys of this month「ディディーナさんの土笛」
◆日本玩具博物館は1990年代初頭より、世界各地の玩具や人形を扱う博物館施設と連携し、伝承玩具についての情報や資料を交換する活動を続けてきました。ルーマニアのシビウ市郊外にある国立アストゥラ博物館(シビウ民俗博物館)もそのひとつです。思い出深い初めての資料交換は1992年秋。まずはこちらから日本的な情感を伝える各地の郷土玩具約40点を梱包し、それぞれに製作者や産地の資料をつけて航空便でお送りしました。
◆当時、東ヨーロッパ圏内はまだまだ郵便事情がわるく、インターネット通信も一般化していないなかでのやりとりは相当な緊張感を伴いました。ずいぶん時間を経たのち、先方から手紙が届き、博物館の皆さんが日本各地の土人形や張り子の動物、また木地玩具などを愛しむように迎えて下さったことを知りました。そして1993年3月初旬、税関経由でダンボール箱(…少し傷みがありましたが…)が届き、―――おそるおそる梱包を解いて、一点一点、丁寧に薄用紙に包まれたトランシルバニアやワラキア、モルダヴィアなどに伝わる素朴で温かな郷土玩具を机の上にずらりと並べた日の感動は忘れられません。大小合わせて50点!
◆ムンテニア地方プラホヴァ県Pisc村の土笛も1回目の資料交換時に届いたものです。国立アストゥラ博物館の説明文には、「小さな土笛はPisc村の郷土玩具で、この村のディディーナ・パンデルさんが手捻りで造形し、木のヘラで模様付けした後、低い温度で焼きしめて作っているもの。Pisc村の新石器時代の遺跡からは素焼きの造形物が出土しており、ディディーナさんの土笛は、遠い時代の作り方や形に非常に近い」とありました。
◆ディディーナさんの土笛のラインナップには、亀やリス、ロバや羊、馬、猫、鶏や雛鳥などがあり、丸く浮きたったまぶたと目が愛らしく印象的です。細長い笛部分は、動物たちの身体の輪郭と分かちがたく成形されていて、小さな吹き口から息を送ると、雑味のある甲高い音色が響きます。動物たちの胸にはひとつ指孔が作られており、開閉させながら吹くと、ピロピロピロ・・・・と楽しい音を作ることもできます。
◆これら素朴な土笛は、4号館2階の常設展「世界の玩具」で常時ご紹介しています。
(学芸員・尾崎織女)