「老虎の沓(くつ)」 | 日本玩具博物館

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今月のおもちゃ

Toys of this month
2020年5月

「老虎の沓(くつ)」

  • 1980年代
  • 中国・陝西省/布・刺繍糸
子どもが室内で履く老虎の沓(陝西省/布・刺繍糸/1980年代)

「端午節」といえば、「春節」(旧暦の正月)につぐ大事な節句行事です。かつて、中国ではどこの家でも宝剣をかたどった菖蒲や蓬の葉を戸口に飾り、薬草で室内をいぶして疫病神の退散を願ったといいます。夜になると、眠っている子どもの腕や指に輪にした色糸をかけ、邪気払いが行われました。また、この日には、龍船競争や粽を食べる習慣もあり、日本の端午の節句行事は、中国文化の影響を受けたものであることがよく理解できます。

今ではそんな風習も地方に少し残されている程度だと聞きますが、かつては端午節が巡ってくると、中国の子どもたちは、額に虎を表す「王」の文字を書き、頬から耳には、魔除けの力をもつ雄黄酒で線をひいてもらいました。虎頭の帽子に虎顔の沓、虎模様の上着を身にまとい、首からは厄除けになる虎の香包を懸けて、子どもたちは小さな虎になるのです。

老虎の帽子(中国・陝西省西安/1980年代)

百獣の王である虎は、魔除けの力をもつ霊獣として、古くからの中国の人々に敬愛されてきました。尊敬を表す「老」を冠して「老虎」と呼ばれるあたりにも、人々の虎への信頼と敬意が表れています。
中国に「端午の虎、五毒を踏みつける」という言葉があります。五毒とは、ムカデ、サソリ、トカゲ、ガマ、ヘビのことで、強い精力をもった恐るべき存在を意味しています。それらを平然とふみつける虎は、魔を追い払う霊獣。端午の節句の“虎づくし”には、虎のもつ霊力にあやかり、強く健やかな子どもに育ってほしいという親たちの願いが込められています。

写真の赤い老虎の沓は陝西省で1980年代に作られたもの。中国民間玩具研究者の伊藤三朗氏から寄贈いただいた品です。かつては家庭で手作りされており、布を重ねて糸で綴じつけ、虎の顔をつけて仕立てました。祖母が孫の健康を願って、誕生祝いに贈ることも多かったそうです。見開いた大きな目、沓底に施された美しい刺繍も魔除けの力を強調しています。

(学芸員・尾崎織女)