今月のおもちゃ
Toys of this month
2008年3月
「掛け軸の雛飾り」
関西地方には、描かれた雛人形を掛け軸に仕立てて床に飾る「掛け軸雛」を伝える家々が数多くあります。江戸時代終わり頃から京阪をはじめ、各地で製作され、明治・大正時代には様々な様式の掛け軸雛が作られました。桃の節句当日の様子を描いたもの、御殿飾りや段飾りの雛人形をそのまま描いたもの、雛人形だけ押絵で作られたもの…など、場所もとらず、安価なことから、戦争色が濃くなる昭和初期の頃には、関西地方の町家だけではなく、西日本一帯の農村部などでも人気を博しました。
写真は、地元播州から寄贈いただいたもので、明治末期の作と思われます。木版で輪郭をその上を岩絵の具で彩色した量産版で、周辺の博物館の所蔵品などに、同じ図案の掛け軸飾りを見かけることがあります。縦90cm×横79cmの画面は、掛け軸雛にしては比較的大きいものといえます。
満開の桜に、黄色い実をつけた橘が美しい御殿の庭では、鳥兜をかぶった雅楽隊の五人囃子が楽を奏し、胡蝶の舞がまさに舞われている最中です。御殿の中には、古今雛の様式に似せた衣装の内裏雛、三人官女が三方、島台、長柄杓を持って、廊下を渡っていきます。階の下には、左右の大臣(随身)、三人の仕丁たちは、仕事を放り出して桃花酒を酌み交わしています。節句の日の華やいだ空気が感じられる楽しい図柄です。
宮中で行われる桃の節句(上巳)の有り様を想像して描かれた掛け軸雛、関西地方製のそれらは、やはり同じ時期に同じ地域で人気のあった「御殿飾り雛」の世界に通じる賑やかさと雅やかさをもっています。素朴ながらに・・・。