凧あげ祭りとともに新春スタート!   | 日本玩具博物館

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学芸室から 2007.01.04

凧あげ祭りとともに新春スタート!  

新しい年が明け、日本玩具博物館の一番最初の仕事は、「全国凧あげ祭り」の開催と決まっています。全国から凧づくり名人や凧あげ名人が集い、自慢の郷土凧を新春の大空に披露する行事で、本年、1月7日をもって、第33回目を数えます。前夜祭と当日を通して、参加者、主催者、協力者・・・・・・何百人もの方々の力で盛り上がる祭りで、私たちは「明けましておめでとうございます」の挨拶を一体、どのぐらい言い交わしたかしら?と思うほど、多くの人たちと新春を祝いながら一年がスタートします。

第13回目からは姫路市との共催が実現し、80種900点近い全国の郷土凧が広い青空に揃い揚がる新春の風物詩として、また、ギャラリーがのべ2万人平均という大きな地域催事として、全国紙一面トップにカラーで紹介される年があるほど有名な行事となりましたが、その中心には、第1回目から変わることのない井上重義館長の、和凧の美への憧憬とそれを育んできた郷土文化に対する敬愛があり、それを信頼し共感して、毎年、ほとんど手弁当で集って下さる全国の凧師たちの長く続く友情があります。 

年々の凧あげまつりの風景

この年末、本棚を整理していて、昔、井上館長からもらった『明石豆本らんぷ叢書第18編・日本の凧』というのを久しぶりに手にとりました。明石豆本は、片手にすっぽり収まるサイズのミニチュア本です。昭和40年代、兵庫県在住の文化人100名が会員となり、各会員が1冊ずつ執筆するという趣旨で「明石豆本らんぷの会」が発足し、100号を目標に刊行を開始したようですが、種々の事情から26号で中断してしまいました。
昭和28(1953)年、小樽で刊行された「ゑぞまめほん」が発端となって、各地で郷土色を生かした地方豆本が続々と刊行されるようになったと言われています。やがて、各地の豆本を集めて楽しむ人も増え、愛好家の中には自分の豆本を作ることも流行したようです。明石豆本も、そうした戦後の豆本製作ブームの流れを受けたものと思われます。紙は播磨特産の杉原紙、表紙の挿絵はやはり地元の画家、納健氏の手によるものです。

さて、館長が『日本の凧』を著したのは、博物館をオープンする前、昭和47(1972)年のことです。本書には、凧の歴史について簡単に触れた後、手元に集めた日本各地の郷土凧250点ほどの資料をもとに、東北、関東、中部・北陸、関西、中国、四国、九州の7地域に分けて写真入りで解説がなされ、その形や歴史、製作者のこと、また収集の過程でわかった事実についても書き込まれています。当時、郷土凧をテーマに書かれた文献はほとんどなく、とても画期的だったでしょうし、限定100部の豆本にありながら、昭和40年代の和凧の現状が収まった一冊として、今となっては貴重な文献です。お正月に読み返してみて、あらためてそう感じました。

「・・・・・・日本の凧は明治の中頃から衰退の一途をたどっているが、今、浜松(静岡県)や白根(新潟県)、鳴門(徳島県)、長崎(長崎県)などの凧揚げの盛んな地方は、ディスカバー・ジャパンの波にのって、多くの観光客が凧揚げや凧合戦に押しかけるようになった。しかし、観光用になったことで、昔の勇壮さがなくなったと、嘆く人が多い。また、現存する各地の凧も、その多くは民画としてのよさが評価され、観賞用として民芸店や物産展に並ぶようになったが、骨がない凧絵のみで売られる場合が多く、揚げるという本来の機能を失った凧は、筆法も昔のような力強さがなく、素朴さが消えていくのは当然のことである。・・・・・・」 
井上館長は、このように当時の和凧の様子を語っていて、これが、昭和50(1975)年、手元に収集した郷土凧を暗い展示室ではなく、明るい新春の大空に動態展示して、凧本来の姿を多くの人に伝えようという「凧あげ祭り」に結びついていきます。

たかが33回、されど33回。私がご一緒してきたのは第15回目からにすぎませんが、それでも、人間が集う祭りですから、いろんなことがありました。ひとつの行事、ひとつの仕事を継続させていくのに最も必要なのは、時流をみきわめる目とか経済力とか卓抜した広報力とか、そういうものではなくて、その行事、その仕事の要(かなめ)のハートが冷めず、動ぜず、ぶれないことでしょう。凧あげ祭りの場合、それは、井上館長の冷めず、動ぜず、ぶれないハートであるわけですが、この祭りのさらなる継続を考えると、肝心要を一人が担い続けることの問題点が大きく浮かび上がります。

全国の凧師が集う全国凧あげ祭り前夜祭2005(昨年)

いずれにしろ、大きなお祭りが近づき、私たち裏方は準備のことに気をとられています。その一方で、凧と人とのどんな出会いが待っているのか、わくわく楽しみな仕事始めであります。春夏秋冬、めぐる季節はいつも同じはずなのに、その度に季節との出会いは新しく鮮やかです。思えば、祭りを望む心は、やって来る季節を待つ気持ちにも似ています。

(学芸員・尾崎織女)


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