「端午節の牛面虎」 | 日本玩具博物館

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今月のおもちゃ

Toys of this month
2021年5月

「端午節の牛面虎」

  • 1980年代
  • 中国・山西省/布・毛糸・もみ殻など

端午節は中国で成立した季節の変わり目の厄除け行事です。
6世紀ころの揚子江中流域における年中行事などをまとめた『荊楚歳時記』(南朝・梁の宗懍著)には端午節に関わる様々な風習が記されていますが、そこには、「五月五日、四民並びに蹋百草の戯あり、艾(ヨモギ)を採りて以て人を為り、門戸の上に懸け、以て毒気を祓う。菖蒲を以て、或いはきざみ、或いはこなとし、以て酒にうかぶ」(守谷美雄訳注、東洋文庫)とあります。ヨモギの人形や菖蒲酒によって邪気払いが行われていたことがわかります。
また、「艾(ヨモギ)で虎形をつくり、あるいは綵(あやぎぬ)をきって小虎をつくり、艾の葉を貼る」という習俗もみられました。

時代が下って近代中国が成立した20世紀に入っても、端午の魔よけには、菖蒲やヨモギ、また虎の作りものが大切な位置を占めていました。

そんな端午節に出まわる伝統的な玩具は、男児用には虎のぬいぐるみ「布老虎」、女児用には薬草を入れて首にかける「香包」です。―――太陽暦の五月五日は一年でもっとも爽やかな好季節ですが、太陰暦五月五日は、蒸し暑くなって毒虫などもわき出し、疫病が流行しやすい時節。虎も薬草も子ども達を魔物から守るための備えであると考えられてきたのです。

緑の「牛面虎」の身体に刺繍されたムカデ

山西省で作られた緑色の「牛面虎」は、ヨモギから作られた虎を表し、牛のような角と白蛇のような鼻や眉に、妖魔を駆逐する霊力が込められているようです。また、緑の身体には、強い精力の象徴でもある五毒(ムカデ、サソリ、トカゲ、ガマ、ヘビ)が刺繍され、魔除けの力をさらに強調しています。――一方、大きく見開いた丸い目と魚のような口はなんとも大らかで、各所に結ばれた毛糸の房飾りが子どもの遊び相手にふさわしい愛らしさを添えています。 

(学芸員・尾崎織女)