展示・イベント案内
exhibition冬の企画展 「虎の郷土玩具」
- 会期
- 2021年11月13日(土) 2022年3月22日(火)
- 会場
- 1号館
※ 好評につき、ご要望にお応えして、会期を3月22日(火)まで延長いたします!
●令和4(2022)年の干支の動物は寅(=虎)。寅歳を祝い、虎の郷土玩具展を開催します。十二支は、日本人の暮らしに深く浸透した民間信仰です。例えば、生まれ年にあたる動物の性質がその人の性格や運勢などに関係するという信仰、自分の生まれ年に因んだ動物を守りにする習俗などがあります。干支の郷土玩具はこれらを母体にして生まれた庶民的な文化財です。
●虎は、わが国には生息しない動物。虎という動物の姿については、大陸から渡来する絵画や造形物を通して、古くから知られていたに違いありませんが、文献上、日本人と本物の虎との出合いは、文禄3(1595)年。朝鮮の役に従事した吉川広家が豊臣秀吉に虎を送り、秀吉が宮中に運んで天覧に供したと伝えられています。生きた虎が見世物として庶民の前に登場するのは、延宝3(1657)年の版本『蘆分船』の「大阪・道頓堀見世物」の条に「虎の生け捕り」とあり、さらに『摂陽年鑑』にも「延宝年中、虎の生捕りとて大坂(阪)に於いて諸人に見せしむ」とあります。虎は江戸庶民の人気を集めていたようです。
●虎の玩具について記されているは、井原西鶴著の『男色大鑑』(貞享4・1687年刊)で、第7巻の中に「道頓堀の真斉橋(心斎橋)に人形屋新六と言へる人、手細工に獅子笛あるいは張貫の虎、またはふんどしなしの赤鬼、太鼓もたぬ安神鳴,これみな童子たらしの…」とあって、張貫(=張子)の虎が人形屋で作られ、子どもに喜ばれている様子がわかります。
●虎には、邪気を払う強い霊力があると信じられていたことから、災厄を除ける守りとして、また子どもの健康を願う節句飾りとして全国各地で流行し、今も日本各地の張子屋や土人形の産地で、様々な種類の虎玩具が作られています。
●本展で紹介する虎の多くは、昭和初期にはすでに“日本一の虎玩具収集家”として有名だった故・長尾善三さん(1902-1974)の虎玩具コレクションです。当館は、長尾氏のご家族から、平成9(1997)年に1,000点に及ぶ資料の寄贈を受け、さらに平成25(2013)年には約300点の追贈をお受けしています。過去には、平成10(1998)年、さらに平成22(2010)年の寅歳にこれらを展示しており、今回は三度目、12年ぶりの公開となります。
●長尾善三氏は、明治35(1902)年、寅歳の大阪生まれ。20歳の頃、大阪の「神農さん」の祭礼で小さな張子の虎を買ったのをきっかけに収集を始められ、昭和49(1974)年に72才で亡くなるまで、虎玩具収集に熱中されました。長尾コレクションの中心は、昭和13(1938)年の寅歳前後に収集されたもので、戦火や震災をくぐりぬけ、80年以上の歳月を生きてきたものたちです。これらの中には、太平洋戦争の空襲やその後の混乱によって廃絶した、広島や大阪の張子の虎をはじめ、現在では作られていない産地のものが多数含まれており、また戦前の資料が残されることは稀であるため、質・量ともに“日本一の虎玩具コレクション”と言っても過言ではありません。産地は、青森から沖縄まで全国各地、さらに中国や朝鮮半島、インドネシアなど、東南アジア諸国に及んでいます。
●本展では、長尾コレクションと当館独自の虎玩具コレクションの中から、400点を選び、おもちゃ絵や大正15年の年賀状などとともに、地域ごと、種類ごとに特徴ある資料をご紹介します。
■展示総数 約500点
◆虎の玩具・お国めぐり◆
●江戸時代の終わり、庶民階級が経済力を持ち、農村部にも商品経済が広がっていく頃になると、土や木や紙など身近にある材料を使って専門的に、また農家の副業として素朴な玩具が作られるようになります。これらは郷土という範囲で流通したものが多く、今日、郷土玩具の名で知られています。人々の生活の中から生まれ、愛されてきた郷土玩具は、子ども達を喜ばせる玩具というに留まらず、郷土の信仰や伝説、美意識や幸福感を表現した小さな造形といえます。このコーナーでは、東北、関東、甲信越、中部・東海、近畿、中国、四国、九州・沖縄と地域ごとに展示します。
*東北地方……江戸時代からの歴史をもつ三春張子の虎はその風格から、全国の虎玩具中の横綱級と高い評価を得ています。また木を削って作る笹野彫りの虎、下川原土人形の虎笛がユニークです。
*関東地方……大森の麦わら細工の虎、とんだりはねたりの虎、亀戸の座り虎、那珂湊の横向きの虎など奇知に富んで楽しい作品が見られます。
*甲信越地方……小型の虎が多く、やさしい表現が目立ちます。古都・金沢では様々な虎が作られ、千両虎は全国でも珍しい造形です。新潟や長野の張子の虎はいずれも戦前に廃絶していることから非常に貴重です。
*中部・東海地方……この地方には張子虎だけでなく、土製虎にもユニークな造形が目立ちます。静岡の虎は平成22年寅年の年賀切手のモデルになりました。清水や名古屋の車の付いた虎は飾り物の多い中で遊び道具に仕立てられた数少ない存在です。
*近畿地方……大阪では江戸時代から張子屋があり、戦前は盛んに作られていました。大阪張子の流れを汲んだ大型の首ふりの虎が兵庫県や岡山などで作られました。また全国の土人形の元祖とされる京都の伏見人形も優れた虎の造形が見られます。
*中国・四国地方……この地方の虎は大阪の張子虎の影響を受けたものか、尾が差し込み式で首が揺れ動く様式が目立ちます。広島の虎は原爆で廃絶した貴重品です。出雲の虎は昭和37年の寅年のモデルになりました。
*九州・沖縄地方……博多や沖縄の起き上がりの虎は、表情もユニークで楽しい作品です。柳川、宇土、那覇などは、廃絶して久しく、中でも柳川と那覇の虎は遺された作品が少なく貴重な資料です。
◆虎という霊獣◆
●中国では「枢星散じて虎となる」といわれるように、虎の前身は、天空における重要な星であると考えられてきました。また、朝鮮半島では、虎は山神の使いと考えられ、山神堂には、虎の絵が掲げられました。日本において、虎には竹林が配されますが、これは、「風」を視覚化したものが竹林であり、虎は「風」を支配する霊獣とみなされたためです。星の化身、風の化身、神の使い、骨が漢方薬になる動物、勇猛果敢な百獣の王・・・そうした虎に対するイメージによって誕生した虎の郷土玩具を、「病魔よけの虎」「端午の虎」「毘沙門天と虎」「虎の物語」「首ふり虎」などのグループに分けて展示します。
*病魔よけの虎……病魔よけの虎として有名なのは、大阪市道修町にある少彦名神社の「神農祭」で授与される、小さな虎張子です。神農は、人々に医療と農業を教えた古代中国の皇帝で、日本でも薬祖として尊崇を集めています。文政5(1822)年、コレラが大流行した折、少彦名神社でコレラに効く「虎頭殺鬼雄黄圓」とともに、五葉笹につけた張子の虎が人気を呼びました。現在も、無病息災の守りとして授与されています。
*端午の虎……中国では、端午の節句に、鍾馗の絵とともに、蠍(さそり)・百足(むかで)・蛇などを踏みしめる虎の絵を家の門に貼り付けて邪気払いがなされます。また、地域によっては、この日、子どもたちは、虎模様の衣服・虎の帽子に沓(くつ)を身につけ、虎形の香包をかけ、虎の玩具で遊び、虎形の枕で眠ります。まさに虎模様虎尽くし。端午の虎は強い霊力をもって、邪気を払い、子どもの健康に加勢すると考えられたためです。日本でも、この影響を受けて、端午の節句に虎の張子を飾る地域は少なくありません。島根県出雲や福岡県博多の首ふり虎は端午の節句飾りとして有名です。
*毘沙門と虎……毘沙門天(多聞天)は、北の方角を守護する武神で四天王のひとりです。毘沙門天は、寅の年、寅の月、寅の日、寅の刻に生まれたとされるため、虎との関わりが深く、鞍馬寺(京都洛北)や信貴山(奈良)ほか、毘沙門天を祀って信仰を集める寺院では、虎の張り子や守り、土鈴などが授与されています。ここでは、毘沙門天を祀る寺院にかかわる虎の郷土玩具をご紹介します。
*虎の物語……虎を退治する加藤清正。小姓と馬をさらわれた清正が、自慢の槍で虎を突いたという逸話をもとにしたもので、郷土人形の題材ともなり、 呪力と霊力に満ちた虎をも退治する清正の姿は、神格化され、様々な場面で、特別な意味を持ちました。和藤内は、江戸時代、近松門左衛門の浄瑠璃『国性爺合戦』に登場する人物。明の再興のため大陸に渡った和藤内が、勇猛な虎を伊勢神宮の守り札の霊力によって、従えていく場面は、江戸庶民に人気を博しました。郷土人形には、この和藤内を題材にしたものも多く、加藤清正と並んで端午の節句飾りに人気のある武者人形でした。
*首ふり虎……郷土玩具の虎の中でもっとも多いのが張子の虎。張子の 虎は、江戸時代・安永年間に描かれた『江都二色』という玩具絵本の中にも登場しています。やがて、張子の虎は、首をゆらゆら動くスタイルが人気を呼びました。四方八方を睥睨(へいげい=あたりをにらみつけて勢いを示す)する姿は、目に見えない魔を打ち払う、虎の神秘的な力を表現しているのではないでしょうか。
*アジアの虎……長尾コレクションには、中国を中心に東南アジア各国の虎玩具が含まれています。特に中国では、百獣の王である虎を「老虎」と呼んで敬い、開運出世の守り神として虎の玩具を子どもたちの傍に置いてきました。このコーナーでは、中国をはじめ、朝鮮半島、インド、インドネシア、ミャンマーなどの珍しい虎の玩具を紹介します。
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