今月のおもちゃ
Toys of this month
「フクちゃんのオート三輪」
●「フクちゃん」は、着物姿に大きな下駄と学生帽がトレードマークの小さな男の子。横山隆一氏(1909-2001)の漫画作品シリーズのキャラクターで、1936(昭和11)年、東京朝日新聞・朝日新聞紙面の四コマ漫画欄に登場するや、腕白なフクちゃんのかわいらしさに人気が集まりました。太平洋戦争の戦況が厳しくなる1942(昭和17)年から44(昭和19)年には、戦意高揚と皇国民錬成を企図する国策映画にも「フクちゃんの奇襲」「フクちゃんの増産部隊」「フクちゃんの潜水艦」としてこのキャラクターが用いられました。戦後も連載紙をかえながら愛され続け、1956(昭和31)年から始まった毎日新聞の連載が1971(昭和46)年まで続いたこと、さらに1982(昭和57)年から1984(昭和59)年にはアニメーションがテレビ放映されたことで、フクちゃんは昭和生まれの多くの世代にとって、思い出深いキャラクターのひとりとなっているのです。
●戦前の「フクちゃん」は、「正チャンの冒険」や「ノンキナトウサン」「のらくろ」など、他の漫画キャラクターと並んで、度々、メンコなどの駄菓子屋玩具をはじめ、人形や玩具の題材となり、現在へと続くキャラクター玩具の創成期をにぎやかに彩りました。

●当館は「フクちゃん」がモデルとなった一体の木製玩具を所蔵しています。オート三輪トラックにまたがった姿で、フクちゃんを手に動かしてみると、コロコロ、コロコロ、のどかに前進します。子どもたちは今も昔も、❝働く車❞が大好きですから、トラックの荷台に積み木などを載せて、フクちゃんになったつもりで、あちらこちら、この玩具を走らせたことでしょう。

●日本でオート三輪トラックの製造が始まったのは1920年代(大正末~昭和初期)のこと。1931(昭和6)年からは、ダイハツのHD型やマツダのDA型など、大規模な自動車メーカーが量産を始め、全国に普及をみるようになりました。オート三輪といえば、運転席に屋根のある戦後復興期の仕様を想い起こしますが、戦前は自動二輪(バイク)と同様、運転席にも荷台にも屋根のない姿が一般的でした。玩具史においても戦前戦中、木製の素朴な動物玩具や乗り物玩具が流行していたため、当館では、この「フクちゃんのオート三輪」の製作年代を1930年代後半から1940年代前半と考えていました。


●ところが気になったのが、オート三輪の荷台側面に吹き付けで描かれた「L.B.T」の文字です。オート三輪製造の歴史をあらためて調べてみると、マツダ株式会社が1950年代はじめ(昭和20年代中頃)に製造していた屋根のないオート三輪トラックにLB型というのがあると知りました。「L.B.T」の文字は、LB型Truckを表す記号でしょうか。そうなると、この木製玩具は戦前製ではなく、戦後、昭和20年代中頃、フクちゃん不動の人気と最新のLB型オート三輪への強い関心を受けて製作された品と考えるべきでしょう。製作年代の登録を変更しなくてはなりません。
●夢を表現する玩具ですから、写実一辺倒というわけにはいきませんが、玩具の世界は❝最新❞ということに敏感であるため、概して、実物の特徴をよくとらえて造形されます。――自動車の歴史に詳しい方にもご覧いただき、ご意見をお伺い出来ればありがたく思います。
(学芸員・尾崎織女)