「世界の国の人形」展、オープン  | 日本玩具博物館

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学芸室から 2014.06.21

「世界の国の人形」展、オープン 

1号館「日本の人形遊び」展へのお客さま

1号館で開催している「日本の人形遊び」展には、展示している人形資料を寄贈して下さった方々のご来館が相次いでいます。本日も懐かしいお人形たちに再会するために、遠く関東からご主人さまとご来館下さったご婦人がありました。
展示ケースの前、じっと立ち止まってソフトビニールのミルク飲み人形に見入っておられるので、ケー スを開けて、ご婦人の手にその人形たちを手渡すと、「ああ、さっちゃん…、ひとみちゃん」と両の手で抱き締め、うっすら涙を浮かべられました。昭和20年代後半、戦後の経済復興にまい進していた時代、子どもたちには、今のように、バリエーション豊かに人形や玩具が用意されていたわけではありません。さあ、あれもこれも!と次々に与えられたものでもありません。だからこそ、買ってもらわれたその一体の人形への思いは深く、さっちゃん、ひとみちゃんと名付けて、人形たちと一緒に過ごされた時間の厚さと思い出の深さは、今の時代と比較にならないものだと感じます。

玩具博物館で日本の人形遊びの展示をしていると知った方々から「寝かせると目を閉じるミルク飲み人形は展示してありますか?」と、すでに何本かのお電話を頂戴しています。さっちゃんやひとみちゃんを愛されたご婦人だけでなく、昭和20年代から30年代にかけて、セルロイドやソフトビニールで作られた“ミルク飲み人形”は、この頃に子ども時代を過ごされた方々にとって、あの時代の風景を再び開く心の鍵となっているのですね。
中でも、昭和26年、増田屋斎藤貿易(現・増田屋コーポレーション)が発売したミルク飲み人形は、日本橋の百貨店で発売当時、数日で2000個以上の売り上げがあったほど人気を博したと記録にあります。 昭和29年には「小鳩くるみちゃんのミルクのみ人形」が登場。本当の赤ん坊のような愛らしさが受けて、少女たちが欲しがるクリスマスプレゼントの筆頭となったと言われています。都市部を中心に広く、日本の少女たちに非常に親しまれたもので、懐かしく思われる方が少なくないことと思われます。


6号館「世界の国の人形」展

1号館の「日本の人形遊び」展に引き続き、6号館では「世界の国の人形」展をオープンしました。世界の101の国と地域から、539項目1012体の人形たちが集う賑やかな会場――そこは、緑の地球の上、人種、民族、部族、その価値観や美意識、生活文化の違いを尊重し合って、仲良く暮らす地球人たちの楽園のように見えます。“人形”とひと口に言っても、様々な場面に登場し、様々な用途と性格をもっているもですから、本展では、第一章「人形の世界」として、次の五つの項目によって人形文化を探ろうと考えました。

世界の国の人形展会場の様子

①世界の伝承人形……トウモロコシの皮、麦わら、瓢箪、石、木、土、古布などを使って家庭や小さな工房で手づくりされるもの。近世以前から受け継がれてきたものと考えられます。
②神々や精霊の人形……それぞれの民族が考える神々や自然の精霊、また祖先の姿を形にしたもので、祈りの対象であり、災厄を肩代わりしてくるもの、また傍に置くことで守りとなってくれるものたちです。
③芝居の人形……民族芸能や人形芝居の中で発達した操り人形そのもの、またそれらの造形や仕掛けを真似た人形たちです。
世界の抱き人形……少女たちが腕に抱えて慈しみかわいがった愛玩用の人形たちで、人形の肌の色や目の色は製作地の人々にそっくり。身につけている衣装、帽子、靴、アクセサリーの色や形、模様もまた、その地のものをすっかり移し取って小さく作られているので、人形には、生活文化伝承の意味も込められていると思われます。
⑤人形とおもちゃ……“人形ゴマ”“人形笛”のように、人形と玩具が合体して、その動きにより愛らしさが増す品々を集めました。

第二章「人形で綴る世界紀行」には、①アジア・オセアニア、②中近東・アフリカ、③北米、④中南米、⑤ヨーロッパと地域ごとに民族色豊かな人形が集合しています。
ここでは、近世の頃から伝承されるものに加え、国や地域の親善大使のように活躍する人形、また観光土産として作られた人形も含めて展示しています。それらからは、例えば、コートジボアールの人たちが、タイの山岳民の人たちが、世界の人々に自分たちをどんなふうにとらえてもらいたいかを感じとることが出来るのではないかと思います。人形は、国や地域や民族のアイデンティティの表現でもあるからです。

また会場には、人形が登場する世界の絵本を幾冊か設置しました。たとえば、グアテマラのインディオに伝わる小さな悩み事解決人形の傍には、アンソニー・ブラウン『びくびくビリー』を、18~20世紀にかけて、ドイツ、イタリアなどで盛んに作られ、ヨーロッパの少女に愛された木の人形の傍には、フェイス・ジェイクスの『ティリーのねがいを、錫製の兵隊の傍には、アンデルセンの『すずのへいたい』を、ロシアのマトリョーシカのもとにはヴェ・ヴィクトロフの『マトリョーシカちゃん』を。
絵本の中、人形たちが笑い、悲しみ、友情を感じ、恋をしている様を楽しみながら、展示品の背景にあるその国々の人形文化を感じていただけたらと思います。

    

『びくびくビリー』(アンソニー・ブラウン作/灰島かり訳/評論社/2006年)とグアテマラのトラブル・ドール*・・・いろんなことが心配で心配でたまらないビリー少年は、ベッドに入っても眠れない。そのことをおばあちゃんに話したら、小さな人形をくれました。心配事を引き受けてくれる人形(トラブル・ドール)です。グアテマラに古くから伝わるもので、六体がひと組になっています。さて、ビリーのたくさんの心配事は消えてしまうでしょうか?

       

*『ティリーのねがい』(フェイス・ジェイクス作/小林いづみ訳/こぐま社/1995年)とドイツのペグ・ドール*・・18~20世紀にかけて、ドイツ、イタリアなどで盛んに作られ、ヨーロッパの少女たちに愛された手足の動く木の人形“ティリー”と現代の私たちにもおなじみのテディベア“エドワード”が繰り広げる、心温まる友情の物語。

この夏から秋、開館40周年の日本玩具博物館は“人形”がテーマです。また、こちらの頁でも様々な国の人形たちを詳しく取りあげていきたいと思いますので、人形が綴る平和の世界へぜひ、ご来館下さいませ。

(学芸員・尾崎織女)

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