「おもちゃの馬」~干支の動物展~オープン! | 日本玩具博物館

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学芸室から 2013.11.15

「おもちゃの馬」~干支の動物展~オープン!

木々の実が甘く実るのを待ちかねて、冬の山鳥たちが訪れるようになりました。今朝もエナガの群れが嬉しそうな声を立てながら、熟した柿の実をついばんでいました。シジュウカラ、ヤマガラ、ヒガラなどの混群もそろそろやってくる頃――深まる秋が楽しみなおもちゃ館の庭です。

柿の実を食べにきたエナガ

新春の企画展「おもちゃの馬」

さて、1号館では、来年の干支の動物(午)、馬の玩具や造形物を集めて、「おもちゃの馬」展をオープンしています。世界の民芸的な馬の玩具は、「世界の動物造形」展などでもご紹介をしておりますが、日本の郷土玩具を中心に馬たちが一堂に会するのは12年ぶりのこと。12年前の午年にも『おもちゃの馬』を開催し、専用の梱包箱に眠らせていたのです。十二支がひとめぐりする間にも、独自の収集やコレクターの皆さまからの寄贈によって、戦前に作られた貴重な馬の郷土玩具も少なからず増え、緋色のクロスの上で華やぎを見せています。

青森県八戸の「八幡馬」

去る夏、八戸市博物館からのご依頼で、「世界の鳥のおもちゃ展」を青森県八戸の地へお持ちしていました。展示や撤収の作業をサポートするために、鳥のおもちゃとともに私たちも出張したのですが、仕事の合間、市博物館の学芸スタッフF氏に、 八戸に古くから伝わる“八幡馬”を製作される大久保直次郎さんのお宅へご案内いただきました。八幡馬は、「日本三駒」(八戸の八幡馬、仙台の木ノ下馬、郡山の三春駒)のひとつとして、非常に有名なので、郷土玩具に詳しい方でなくても、また若い方でも、デフォルメされた独特の姿を見たことがあるとおっしゃる方は少なくないことでしょう。

八幡馬は、市内の櫛引八幡宮の旧暦8月15日の例大祭に売られるものとして知られ、明治時代のおもちゃ絵本『うなゐの友』(第二巻)にも、「奥州八の戸八幡宮礼祭毎年八月十五日にこの木馬をひさぐ」とあります。櫛引八幡宮の例大祭は、古くは馬市が開かれた日であったことから、馬を慈しみ育んだ人々は、売られていく愛馬の無事を祈って、この八幡馬を求めるようになったと伝わります。

大久保直次郎さん作の八幡馬(車付)

その始まりについて、八幡馬の由来書は、………承久2(1220)年に、京出身の木工師が是川村天狗沢に住み着いて木工や塗りものをよくしたが、部落のため池の水換えの際に泥の中から馬形を見つけたことで、木馬づくりを思い立った……と語ります。 
学芸員のF氏は、その天狗沢へもご案内下さいました。山吹色のオオハンゴンソウが咲き乱れる山里には、“八幡馬発祥の碑”と彫られた素朴な木の標が立ち、その標からほど近い古い民家には前田姓を伝える表札がかかっていました。八幡馬を作り始めた人の名は前田孫作。静かな山里に、庶民の歴史がひっそりと息づいているのですね。

天狗沢の“八幡馬発祥の碑”

さて、平成時代の八幡馬の作者、大久保直次郎さんは、昭和17年(午年生まれ!)。初代の重吉より数えて四代目で 、父君の岩太郎さんより八幡馬の製作を受け継ぎました。大久保さんは、街中に工房を構えておられるかと思いきや、農村部の笹子地区にたったひとつ残る芝屋根の古い農家で、ひとり鉈をふるっておられました。屋根の上には、撫子や夏水仙が揺れ、イザベラ=バードの『日本奥地紀行』の時代に旅してきたような感慨に打たれました。もしも、工房にドリルという近代的な工具がなかったら、そこはまるで近世のたたずまい。

八幡馬の製作者・大久保直次郎さん
お若い頃の大久保直次郎さん(昭和45年)


大きなヒバ(昔はアカマツが使われていました)の角材を馬の厚みに分断し、分断した一枚一枚 の木板から二頭の馬を切りだします。この際に鋸や鑿を使う以外、ほとんど鉈一本で仕上げます。一番の難所である胸の部分は、やわらかい丸みが出るよう慎重に削ります。材料となる木を選ぶことも、鉈彫りも、タテガミの取り付けも色塗りも、作業はすべて一人で手掛けるため、一日平均で2~3体を作るのが精いっぱいなのだそうです。 

分断した木板から2頭の馬を切りだす

夕顔が咲く農村の片隅、幕末期さながらと思えるような小さな工房で、明けても暮れても木馬の形と向き合うひとりの工人さんの誠意と責任感と愛情によって、八幡馬の伝統が支えられているのですね。直次郎さんは、あえて昔ながらの環境で製作を続けておられるのだと思います。そして、直次郎さんの誠実なお仕事と質素な暮らしぶり、実直な笑顔からは、郷土玩具が誕生し、育まれた風土について示唆的なものを感じました。

直次郎さんの工房

八幡馬に限らず、今回の冬の企画展「おもちゃの馬」に展示している資料は、それぞれに誕生した土地の風情と、作り手の思いを伝えるものです。ご訪問の方々には、ぜひ、その人間的なぬくもりと伝承されてきた品がもつ風格を味わっていただけたらと思います。

(学芸員・尾崎織女)

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