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blog美しき卵たち~春の祝祭の造形~
●イースター(=復活祭)は、キリスト教世界ではクリスマスよりも重要な意味を持つ祝祭。いつかイースターの展示をしてみたいと心にかけてきたのですが、昨年、博物館の友人のご協力によって東欧のイースターエッグを入手する機会に恵まれ、この春、初めてのイースター展を開催する運びとなりました。イースターのウサギやニワトリをかたどった玩具、それに世界の鳥笛もあわせて、展示室は春の造形でいっぱいです。
●ルーマニア、チェコ、スロバキア、ドイツ東部、ポーランド、ウクライナ、リトアニアからやってきたイースターエッグの数々は、中身を抜いた卵殻を様々な手法で加工したオーナメントです。ろうけつ染めあり、エンボス(色つき蜜蝋)細工あり、ペインティングあり、エッチングあり、また針金細工あり、切り紙細工あり、タッティグレースあり、糸細工あり・・・・・・と、作られる土地の伝統工芸の技が生かされ、その美しさ、バリエーションの豊かさには目を見張るものがあります。卵殻の表面を飾るのは、キリスト教以前の信仰とも関わる伝統的な文様であり、好まれる色や素材にも、春の太陽をたたえ、大地の目覚め促し、豊かな暮らしを願う多くの意味がこめられています。―――意味と技と時間と想いが詰まった卵のひとつひとつを、ご来館下さる皆さんにゆっくりと味わいながら鑑賞していただくために、どのように展示すればよいか……、展示設営は、何もかもが手作りの我が玩具館のこと、手元にあるものを使ってどんなふうに飾れるだろうか……と、小さな卵を見つめて、数カ月間、考え続けておりました。
●イースターエッグは、裸木につるしたり、早朝、庭や野原に隠した卵を探して、食卓を飾ったりする風習が行われてきたことから、今回の展示では、ささやかながら、そうしたイースターらしい風景を表現してみようと考えました。同じ産地のものを手籠に盛りつけたり、花瓶にさしたウツギなどの枝に吊るし飾ったり、また、卵色の紙パッキンで“巣”を作り、エッグスタンド代わりにして展示したものもあります。そうして国ごとに展示したイースターエッグのそばには、イースターのウサギやニワトリの玩具を添えました。
●ドイツをはじめとするゲルマン系の国々や英語圏では、イースターには、ウサギが卵を運んでくる(あるいは産む)とされてきました(フランスやイタリアなど、ラテン系の国々では、教会の鐘が運んでくると考えられているようです)。ウサギは多産であることから、古来、豊穣のシンボルです。また跳ねまわるウサギは、生命の躍動を表現し、その目が“月の満ち欠け”(欠けて見えなくなってもまた満ちていく月をキリストの復活にみたてる)を連想させるとして、イースターと関連づけて考えられてきたようです。そうしたウサギにまつわる伝説に触れた絵本なども今回、ウサギたちと一緒に展示いたしました。
●イースターにまつわる玩具や造形は、日本においてはクリスマスほどには親しまれていない世界だと思います。木々の花が咲きほころぶ季節、日本玩具博物館の初めてのイースター展にぜひ、お運び下さり、この心弾む造形の数々をお楽しみいただきたいと思います。私どものイースターコレクションはまだまだ幼く、かわいらしいものですが、皆様のご教示を受けながら豊かに育てていけたらと思っています。
(学芸員・尾崎織女)
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