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館長室から 2012.11.24

開館満38年を迎え、コレクションが大きな力に。

今年は例年になく紅葉が美しく、当館の前の公園や館内の庭は色とりどりの秋の色に包まれました。入り口の野路菊の花も満開で、去り行く秋を惜しむかのようです。

さて今月10日に当館は開館満38年を迎えました。開館以来、一貫して追い求めてきたのは、評価されないままに消えようとする子供や女性に関わる文化財を集大成し、後世に伝えることでした。開館当初5000点だったコレクションは現在9万点。膨大な数量になりました。その数だけでなく内容も、世界的視野から見てもトップレベルのコレクション群をいくつも構築することに成功しました。

紅葉に彩られた6号館への小径

そのひとつが世界のクリスマスコレクションです。1979年の国際児童年に世界の玩具を展示したいと考え、1977年から収集を始めました。ちょうどその頃、ドイツから木製玩具が輸入されるようになり、それが人気を呼んで日本でヨーロッパの木の玩具ブームが起こり、ヨーロッパ各国やアメリカ、カナダなどから良質の木製玩具が続々と輸入されたのです。私はその頃から、東京で国際見本市などがあると出かけてそれらを入手し、輸入業者とも心安くなって貴重な玩具や人形などを入手しました。しかし近年はヨーロッパやアメリカなどからの出展が少なくなり、数年ぶりに今年9月に東京で開かれた国際ギフトショーに出かけましたが、海外からの出展は中国と韓国が中心で、欲しいものは皆無でした。海外のものを出品する国内の輸入業者のブースも衣類や装飾品が中心になり、民芸品的なものを見かけることが大変少なくなりました。世界150か国から3万点もの玩具や人形を集めることが出来たのは、本当に時期が良かったのです。

世界のクリスマスの展示は1985年に私が北欧に出かけてフインランド、スウェーデン、デンマークでクリスマスにかかわる資料を収集したことから、それまでに収集した世界各地のクリスマス関係の資料と併せて、その冬に1号館で約250点を展示したのが始まりです。そして1987年以来、毎年開催するようになり現在に至ります。その間、世界各地に何度も出かけて収集しました。本年は久しぶりにベルギーのブルッセル、ブルージュ、ゲントなどのクリスマスマーケットを訪ねます。しかし、ヨーロッパ各地のクリスマスマーケットで中国製品が盛んに売られるようになっていますので、ベルギーで確かな資料が入手できるか不安があります。

去る21日にはドイツから、久しぶりにフルベルト古本さんご夫妻がご来館下さいました。早速に世界のクリスマス展をご覧いただきましたが、「ドイツでもこのような内容の世界のクリスマス展は見たことがない、コレクションしているところも知らない」とのお話でした。ドイツでもアメリカナイズされた飾りが流行し、伝統的な飾りがどんどん姿を消しているそうです。身近な存在だったこれらを収集する人は少なく、気が付けばいつの間にか姿を消していたというのが現状でしょうか。ドイツにもこのようなコレクションは例がないとなれば、いつの間にか世界でも例を見ないコレクションを30年近い歳月で築き上げたのです。継続こそ大きな力です。

6号館の天井から吊されたヒンメリ

今年も既に何点かの資料を収集しました。そのひとつがフインランド製の麦わら細工のモビール「ヒンメリ」です。ヒンメリは12世紀頃 からフインランドの農村で作られたクリスマスオーナメントです。「ヒンメリ」は天空を表し、ゆらゆらゆれるヒンメリには天空からもたらされる風の精霊が宿り、飾られる空間を清らかな空気で満たすものとされています。専門業者が輸入したとの情報を得て入手しましたが、早速に6号館のクリスマス展会場の天井に吊るして飾りました。

博物館を取り巻く厳しい状況から、博物館冬の時代と呼ばれるようになって10数年がたちました。この度、現在の博物館の問題点を纏めた書籍が雄山閣から出版されました。題名は『博物館危機の時代』です。編者は東北学院大学の辻秀人教授、他に博物館に深いかかわりを持つ9名の方がそれぞれの立場で執筆されています。主として自治体が設立した博物館の現状や問題点で、公立館の厳しい状況が指摘されています。公立館では資料収集予算をもたない館が61%もあり、1990年までのバブル経済とその後しばらくの間、自治体が守るべき文化財を持たないのに、無節操にハコモノを競って作り続けたツケが来ていること。指定管理者の問題、身分が不安定な非常勤学芸員の増加、さらには集客のために過剰な頻度でイベントや企画展が開催され、そのために調査研究がおろそかになっている問題点が指摘されています。博物館の主たる使命は文化遺産を守り伝えることにあり、魅力あるコレクションの形成が大切なのに、目先の結果を追い求めていては博物館に春は来ないと思います。

このところ、お陰さまで大勢がご来館下さっています。今年も横浜から、クリスマス展を毎年楽しみにしていると来館下さいました。函館からも、ちりめん細工を見たいと来館下さいました。6号館前の感想ノートには「日本のおもちゃから外国のおもちゃまで、大人も子供も楽しめますが、壁に貼ってあるポスターもいいですね。子供のときにおばあちゃんに連れてきてもらい、高校生の時は美術部の見学できました。小4の娘と来ています。どうかここがいつまでも無くなりませんように、またきますね」と綴られていました。魅力的なコレクションを構築したことが嬉しい結果として現れています。本日は神戸の生田神社の加藤宮司がご来館下さいましたが、「よくやった」とお褒めの言葉をいただきました。

(館長・井上重義)

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