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blog春の企画展「ちりめん細工の美」によせて
■春爛漫の季節。当館の1号館前にある大きな八重桜(関山)が五分咲きになりました。他にも2号館と6号館前に八重桜(普賢象)があり、白壁土蔵造りの当館が桜の花に美しく彩られます。花の季節にふさわしく、1号館では「ちりめん細工の美」を開催中ですが、同展には遠く全国各地からちりめん細工に関心のある皆さまが来館されています。先日も来館された方が九州の柳川からと分かり感動しましたが、昨日も感想ノートに「ちりめん細工に夢中で、どうしてもこの博物館に来たくて、とうとう東京からやって来ました。満足して帰ります。64歳主婦」と記されていました。ちりめん細工に関心を寄せる方にとっては当館がメッカ的な存在になりつつあるようです。遠くからの来館者が「期待を裏切らない展示内容だ」と言って下さることは、私たちスタッフにとって、大きな喜びであり大きな励ましです。
■今回の「ちりめん細工の美」では当館が約30年かけて集めた江戸末期や明治・大正期のちりめん細工約350点を展示しています。これまでに当館は新旧あわせて約3,000点にのぼるちりめん細工資料を収蔵していますが、このようなコレクションを所蔵する博物館美術館は全国でも例がないと思います。女性が作り上げてきた作品の多くは手芸品の名のもとに評価されることは少なく、価値評価の定まらない資料を収集する博物館は大変少ないからです。
■当館は社会での弱者である子どもや女性にかかわる文化に光を当て、後世に伝えることをひとつの使命にしてきました。私がちりめん細工を知ったのは今から40年も前、全国の手まりや姉様人形を収集する過程でした。当時、ちりめん細工を作る人はなく、忘れられた存在でした。1970年にちりめん細工の秘伝書ともいえる『裁縫おさいくもの』(明治42年・大倉書店刊)を神戸の古書市で入手し、ちりめん細工が日本女性の美意識や造形感覚を表現し、手の技を伝える芸術品であることに気付きました。そして今から20年前の1986年に当館で初めてのちりめん細工展『明治のお細工物と郷土雛展』を開催したのが大きな反響を呼び、それを契機に作品の収集とちりめん細工の復興活動に本格的に取り組みました。
■実は「ちりめん細工」と言う言葉も私が15年ほど前に考えた造語です。正しくは縮緬の裁縫お細工物というべきところを易しく『ちりめん細工』として私が監修した出版物で使いました。1994年刊のNHK出版『ちりめん細工』が最初で、その後5冊のちりめん細工関係の本を出版し、“ちりめん細工”は市民権を得たのです。
■地方の小さな個人立博物館が取り組んだ活動が20年間で全国区になり、伝統手芸の復興に大きな役割を果たし、結果的には館の知名度を高めることにも繋がりました。ちりめん細工は当館が収集に取り組んでいなければ、価値のないものとして数多くのものが消え去り散逸したと思います。資料を系統的に収集し、価値付けることは博物館にとっての大切な仕事であり、それが博物館の活力源にもなると考えています。
■当館のちりめん細工コレクションは8月10日~21日まで大阪の京阪百貨店(守口)で朝日新聞社主催により「ちりめん細工の世界」として展示され、来春は2月10日~4月8日まで東京渋谷のたばこと塩の博物館での特別展開催が決定しています。
(館長・井上重義)
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