日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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館長室から 2010.03.02

時事通信社の連載コラム「ふるさとの玩具」

当館の庭に植えている春咲きの椿の花が次々に開き始めました。これらの椿は市内在住の愛好家のご好意で苗木を植えたのが開花するようになったもので、孔雀椿や月光椿、玉之浦椿など名品も少なくありません。これからしばらくの間は、椿の花もお楽しみいただけます。

この1月1日から時事通信社の配信による私の連載コラム「ふるさとの玩具」が始まり2ヶ月が過ぎました。以前も館長室(1月1日付)で申し上げましたが10日毎に10日分の原稿を届けます。200文字ほどの文章と写真ですが、玩具が収蔵庫から見つからなくって右往左往することがしばしあり、それに作者の現状や今も作られているかどうかの現状確認などで予想以上に手間取り、昨日、3月下旬の原稿を送りやっとひと息つきました。
嬉しいのは私の署名があることから読者から反応があることです。全国のいくつかの地方新聞に連載されていますが、幸いにも地元の神戸新聞に毎日カラーで掲載されているため、ご来館くださったり、近所の方に「読んでいます。スクラップしています」と嬉しいお言葉をいただいたり、長野県や宮城県からも読んでいますと問い合わせをいただいたりで、私にとっては大きな励みです。

連載にあたり私は低迷する郷土玩具の現状から、少しでも郷土玩具に関心を持っていただければと考えて引き受けました。沖縄から始まり、鹿児島、宮崎、大分、熊本、福岡、佐賀、愛媛まで原稿を届けましたが、各地の郷土玩具の厳しい現状が分かりました。後継者もなく廃絶したり、廃絶寸前のものが余りにも多いのです。値段も決して高くはないのですが売れないという言葉もよく聞きました。県による差もあり、かつては物産館で売っていたが今は扱っていない、協会に加入していないので売っていないし実情も分からないという言葉も耳にしました。ふるさとの風土が生み出した郷土玩具が「それぞれの郷土の誇るべき文化財である」との認識がなく、たかが子供のものだと思われているのではないかとも思いました。

当館は過去にアメリカ、スイス、ベルギー、ブラジルなどで所蔵する日本の郷土玩具展を開催しましたが、郷土玩具がわが国では「子どものもの」という先入観からか評価されることが少ないのに、海外では日本人の美意識や造型感覚を表現したアート作品として高い評価を受けたことに驚いた経験もあります。先日、ロンドンから来館されたご夫妻(奥様は日本人)と話し合う機会がありましたが、外国人が見たいのはこのような博物館ですと嬉しい言葉をいただきました。
ふるさとの玩具=郷土玩具は単なる子供の遊び道具ではなく、それぞれの地に住む人々の美意識や造型感覚を表現した文化遺産であり、過ぎ去った時代の風俗や暮らしぶりが遺された資料でもあり、大切に守られる必要があると考えるのです。この度の連載では現存する作品だけでなく、地元の人からも忘れられている大正や昭和初期の作品も順次紹介したいと考えています。

(館長・井上重義)

 

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