日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2020.12.23

再現された「津観音の俵牛」

2018年の夏、当館は三重県立総合博物館(愛称=MieMu)からご依頼を受け、日本の玩具史をたどる企画展「おもちゃ大好き!—郷土玩具とおもちゃの歴史—」にご協力して、約1,000点規模の資料をお持ちしたことがありました。企画展には、三重県の郷土玩具を紹介するコーナーが設けられたのですが、そこに出品した「津観音の俵牛」(昭和初期製/すでに廃絶)をMieMuの担当学芸員・宇河雅之氏が非常に喜ばれ、「サプライズです!」といって、津の銘菓「俵牛」をお土産に下さったのです。

それが廃絶した津の郷土玩具「俵牛」にそっくりで、思わず、目が丸くなりました。この銘菓を作る有限会社お焼屋は慶応元年創業の老舗で、「俵牛」について次のように紹介しておられます。

―――津観音の門前はいつの時代も繁栄を極め、その縁日に欠かせないのが豊年満作を祝うかのような土産の「俵牛」でした。弊店ではこの「俵牛」を型どり、伊勢津観音土産として最中をお作りしております。 丹波大納言小豆と求肥もちの最中です。―――

つまり、この最中は、津観音の縁日売られた土製の俵牛をかたどったものなのですね。最中に刻印される牛の模様も土人形のそれに似せてあって、実にかわいらしい(そしてもっちりとして美味しい)。廃絶してしまった郷土玩具の姿がお菓子になって遺されているとは嬉しい驚きでした。

最中の「俵牛」と土人形の俵牛

その話に、郷土玩具愛好家で、広島県民藝協会にも所属しておられる千葉孝嗣さんが心にとめられ、私からお送りした戦前の俵牛の画像だけを手がかりに、この度、津観音の俵牛の再現を果たされました。本日、千葉さんの「俵牛」が手元に届き、うれしく、戦前の品と対面させたところです。
どちらが戦前の古作で、どちらが再現品がお分かりになりますか?

左=千葉孝嗣さんによる再現 右=戦前の俵牛
左=千葉孝嗣さんによる再現 右=戦前の俵牛

千葉さんは、広島県宮島に伝承されてきた郷土玩具「鹿猿」の歴史をたどり、明治末期や昭和10年代の作を再現して、小さな郷土玩具が伝える土地の文化をそっと今につないでいく活動をひっそりと熱く続けておられます。
郷土玩具は、地縁集団のなかで発達し、製作者は、祖父から父へ、父から子へ、子から孫へ…と血縁によって受け継がれる産地が多いのですが、そうした伝承の形態がもうすでに難しくなってしまった今、千葉さんのご活動もそうですが、21世紀的なアプローチで郷土玩具の世界を掬い上げていくことを、広く考えていくべきなのだと思います。

来年の干支は「辛丑」。現在、2号館では来年の干支の動物をテーマに、「牛のおもちゃ展」を開催しています。郷土玩具の牛を集めてみると、京都府伏見や福岡県博多、また宮城県仙台をはじめとして、日本各地に「俵牛」が伝わっており、かつて非常に人気のあったデザインであることがわかります。農業が暮らしの糧であった農村部において、牛は農耕に欠かせない動物であり、家族同様に大切に扱われてきました。米俵を満載した牛は、豊年満作を象徴し、豊かな暮らしへの願いが託された造形といえます。

「牛のおもちゃ展」より俵牛の展示コーナー(一部)

ご来館の折には、どうか、一歩、展示ケースに近づいて、日本各地の俵牛たちと対話なさって下さい。来年は心豊かに暮らせますように…と願いを掛けながら。「津観音の俵牛」(三重県津市/昭和初期製)や再現された俵牛たちともぜひ! 「牛のおもちゃ展」は、来年2月16日(火)まで開催しています。

(学芸員・尾崎 織女)

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