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blog4号館常設展示室、四季折々のスポットライト
■色づき始めた庭にツワブキやノコンギクが静かに開花し、秋も深まりを見せ始めました。11月に入り、ご遠方から「世界のクリスマス展」を訪ねてこられる方々が増え、またキリスト教系のこども園からは、クリスマス文化に触れ合いたいと、たくさんの可愛いお客さまをお迎えしています。クリスマスアドベント(待降節)に向かうこの季節は、展示品と来館者の距離がぐんと縮まっていくようで、展示室にいると私たちスタッフも幸せに満たされます。
■さて、この「学芸室から」のお便りで、原田学芸員が折々ご紹介しておりますように、本年度より4号館1階の「日本の郷土玩具」の常設展示室に、季節の移り変わりに合わせていくつかの郷土玩具にスポットライトを当てる小コーナーを設けました。4月から5月には「郷土の金太郎たち」を展示し、6月から7月は「市川流域の七夕飾り」を、8月は夏の夜を彩る「灯籠玩具」、9月は中秋節にちなんで「兎の郷土玩具」、10月は「播州の祭礼玩具」をとりあげました。テーマに沿ってすくいあげた郷土玩具の数点をじっくりみていただこうという企画です。
■11月は、東京都荒川区で桐塑製の「犬張子」を作り続けてこられた田中作典さんとその作品を展示しています。82歳になる田中作典さんは犬張子を作って65年(荒川区指定無形文化財保持者)。田中さんの犬張子とそのお人柄を愛して、長く交流を続けてこられた山口裕美子さん(私の畏友)から、ぜひとも!とお誘いを受け、去る9月20日、原田学芸員とともに田中さんの工房を訪問いたしました。
■田中さんの作品はどの大きさも本当に愛らしい姿です。明治25年頃に、雛人形のまち・埼玉県岩槻にほど近い町で犬を作り始められたお祖父さまから数えて三代目にあたる作典さんは、東京都荒川区で桐塑生地の型抜きによる成形、三度にわたる胡粉塗り、湿らせた布による磨き上げ、そして彩色・・・といういわゆる「張子」とは異なる手法を受け継いでこられました。飾り布を貼る奥さまと向かい合い、来る日も来る日も、一つ一つを丁寧に愛しむように、作り続けてこられた田中さん。ご夫婦の温かさに包まれ、材料について、製作手順について、デザインの始まりについて、種類や注文主や販売先や最盛期や・・・お仕事についてあれこれとお話を伺い、それは本当に得難い時間でした。
■今年度で廃業を予定されていると伺い、非常に残念です。お手元で大事になさってこられた抜き型を当館へ寄贈いただきました。この貴重な資料を永く保存し、後世に伝えたいと思っております。ご来館の方々には、4号館常設展示室でスポットライトを浴びる古い桐塑の抜型をぜひ、ご覧くださいませ。木製の枠のなか、黒々と陶器のような犬の型は松脂(まつやに)で成形されたものです。昭和中期の頃より日々、犬の形を生み出し続けてきた抜型の味わい深さにぜひ、目をお留めいただきたいと思います。
(学芸員・尾崎織女)
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