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blog戦前の趣味家たちのおもちゃ絵本
◆筋肉痛にもめげず、井上館長とともに、6号館2階の収蔵庫整理を少しずつ進めています。先日は、巨大なルービックキューブと化した庫内の深奥部から、大正から昭和10年代の “おもちゃ絵本” を取り出すことができ、今、わくわくしながらページを繰っているところです。
◆それらは、日本画家にして小美術店「吾八」の主人、また美術誌の編集者でもあった山内金三郎(神斧/1886-1966)が著した『寿々』の様々なシリーズ、人形玩具研究者・有坂與太郎(1896-1955)の『おもちゃ絵(画)本』、漫画家にして江戸風俗研究家であった宮尾しげを(1902-1982)と有坂與太郎がつくった『新うなゐの友』、財界人にして郷土玩具蒐集家であった岸本五兵衛(彩星童人/1898-1946)の『異国虎玩具図絵』や『貯金箱』、川喜田半泥子(1878-1963)の『唐子の友』などです。―――すべて戦前の玩具蒐集家からの寄贈品ですが、保存状態がよく、洒脱でセンスあふれるおもちゃ絵が次々にあらわれて目を奪われます。ページを繰りながら解説文を読んでいると、戦前を生きた我らが大・大先輩たちの民藝的玩具への熱いまなざしが感じられ、その軽やかな世界へと心がふうっと引き寄せられていくようです。
◆『唐子の友』を著した川喜田半泥子は、≪東の魯山人、西の半泥子≫とも、≪昭和の光悦≫とも呼ばれた陶芸家。半泥子は、大正2(1913)年に中国を訪問しています。『唐子の友』は、彼の地のおもちゃを興味津々、描いたものを、翌年、自刻によって限定出版した書ですが、清水晴風(1851-1913)がすでに出版していたおもちゃ絵本『うなゐの友』になぞらえた書名だと半泥子自身が語っています。少し、中身をご紹介します。
◆ここに描かれた1910年代の中国民間玩具と同じものが当館の所蔵品(尾崎清次コレクション)にも見られ、戦前の玩具趣味家たちの海外の民衆造形への関心の高さ、また異文化に出合った喜びの深さが感じられます。
◆ 一ページ、一ページ、書物に負担のない方法で画像おこしをして、今、民藝をとりまく戦前の文化人ネットワークを探究するチームの皆さんにみていいただいている最中です。将来、図書館のようにデジタル・アーカイブ化できたらよいのだけれど…と夢想したりもしています。―――そこまでいくには、まだまだ時間もかかりますので、こちらのブログで折に触れてご紹介させていただきます。
(学芸員・尾崎 織女)
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