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blog播磨の七夕飾り、復活を期して
★新暦七夕が近づきました。かつて銀山で栄えた兵庫県朝来市生野町(但馬地方)のご家庭では、七夕に裁縫の上達を願い、千代紙を切って「七夕さんの着物」が飾られます。コロナ禍中ですが、今年も準備をなさっておられるでしょうか。身丈が30㎝ほどのかわいい着物で、千代紙の色や袖の長さ、帯の結び方などで男女を区別し、彦星と織姫に見立てる家庭もあります。軒下に2本の笹飾りを1.5mほど離して立て、その間に細竹や苧殻(おがら=麻の茎)を渡したら、そこに幾枚もの七夕さんの着物を並べ飾ります。その下には小机を置き、初秋の野菜を供えて天の二星を拝します。
★今年は、あちらこちらのコラムで、また本サイトの「今月のおもちゃ・7月」で、生野の七夕さんをご紹介しています。新暦7月7日は梅雨に当たり、天の星合が思うようには果たせない年が多いのですが、今年はどうか天の川が増水したりしませんように。
姫路市大塩町の復活への取り組み
★生野町(市川の源流のまち)のほかには、こうした様式の七夕飾りは、兵庫県姫路市や高砂市の塩業で栄えた播磨灘沿岸地方(市川の下流東岸の町々)で見られるのみですが、町々に伝わる節句の祝い方も、平成から令和時代への❝時の急流❞に沈んだり流されたりして、すくい上げなければいつの間にか失われてしまいます。
★そのような中、姫路市大塩町の<大きな縁(塩)のまちづくり実行委員会>の皆さんが、「七夕さんの着物」のある七夕飾りの復活に向けて取り組まれています。昨秋には、七夕の歴史や日本各地の七夕行事についてのお話を聴きに来館され、わが町の七夕の特色を確認されました。コロナ禍中ですが、今夏は、町をあげて、子どもたちの成長を祝う七夕まつりを楽しみながら行えるようと、いろいろとしかけを用意しておられます。まちを担う中核世代の方々の生活文化を想う熱いお気持ちに打たれ、私たちもその素敵な活動を応援したいと思っています。
★大塩町の七夕は、旧暦時代の季節感に合わせるため、昔から月遅れで祝われます。下記のモノクロ写真は、当館の井上館長が昭和40年代初頭、播磨灘沿岸の町々に伝わる「七夕さんの着物(七夕人形)」について、広く全国に紹介した折に撮影していたものです。大塩町の柴田提灯店製の羽織袴型も飾られています。
★播磨灘沿岸でも生野町でも、七夕飾りはすべて、家庭で手作りされていましたが、やがて、各町に「七夕さんの着物」を製作して販売する店が現れ、町ごとに造形的な特徴を形成してきました。大塩町では、柴田提灯店が昔も今も、その役割を担っておられます。昭和中期から後期にかけては、まだまだ盛んに行われていた家庭での七夕の祝いが、子どもの数の減少や自然環境、社会環境の変化のなかで、どんどんと退潮している状況です。次の画像は、2007年8月の大塩七夕の様子を写したものです。
★さて、<大きな縁(塩)のまちづくり実行委員会>からお知らせいただいた今年のいくつかの企画―――8月5日(木)には、改築が予定されている山陽電鉄・大塩駅で飾り付けの様子が見られます。また、8月6日(金)10時からは、大塩公民館にて大塩の七夕紙衣「七夕さんの着物」製作キットのプレゼント(先着200名)が準備されています。大塩らしいツヤ紙の七夕さんが5着入ったセットです。私も作図などについてご協力させていただきました。古い街並をもつ大塩町――家庭においても、愛らしく爽やかな七夕が復活していくことでしょう。一ヶ月先のことですが、ぜひ、大塩七夕のご見学をご予定ください。
<追記>高砂市でも七夕飾り伝承活動が始まっています!
★姫路市大塩町の東隣にあたる高砂市においても、数年前から高砂市立図書館で「七夕さんの着物」のある七夕飾りを紹介する講座を開いておられましたが、本年は初めて、高砂市曽根町の「旧入江家住宅(兵庫県指定重要有形文化財)」で、地元の小学校や婦人会のご協力のもと、伝承の七夕飾りが行う計画があると、お付き合いのあるご担当者からお便りをいただきました。月遅れの七夕には、七夕飾りが施された入江家住宅が一般公開されます。さぞや、風情豊かな立秋の風景を楽しめることでしょう。
*2016年7月 高砂市図書館の七夕飾り *2021年8月 高砂市曽根町・旧入江家での七夕飾りのご案内
★入江家は江戸時代から製塩業を営む曽根村の庄屋でした。かつて製塩業で栄えた町々は生活文化においても深いつながりをもっています。姫路市大塩町や高砂市曽根町をはじめ、各町でのこのような試みが実を結び、やがては銀山で栄えた朝来市生野町から市川沿いに「銀の馬車道」を通って南下し、姫路市から高砂市にかけての播磨灘沿いを結ぶ七夕紙衣ロードが形成されるといいなと夢想しています。
(学芸員・尾崎 織女)
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