日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2021.09.16

郷土玩具の世界を若い人たちに

去る9月9日と14日は、当館が位置する姫路市香寺町内の県立高校よりお招きを受け、高校3年生の授業にお伺いしました。テーマは、江戸時代後期の庶民層に親しまれた玩具(当時は「手遊び」「もちゃそび」「手守り」などと呼ばれていました)の姿に触れ、親しむこと。
1回目の授業では、安永2(1773)年の絵本『江都二色』に描かれた絵図や、その姿を今に伝える日本各地の郷土玩具を観察することで、私たちの祖先が遺した小さな文化遺産に目をむけてもらおうとたくさんの資料を持って出かけました。

『江都二色』(安永2・1773年刊)に登場する江戸市中の「手遊び」のいろいろ(一部です)

近世の「手遊び」は、材料も塗料も接着剤もすべて自然を加工したものであること、発音の仕組みが豊かで、様々な音を楽しめるものであったこと、動く仕掛けには竹のしなりがうまく生かされていたこと、玩具の題材や色、音、動き、素材……それらすべてに、魔物を払い、邪気を除け、遊び手である子どもたちを守るためのまじないが施されていたこと―――隅々をよく観察し、近世の玩具のそのような性質をさぐっていきました。


『江都二色』と隠れ屏風、松風独楽―――隠れ屏風を皆で製作しました

2回目の授業では、18世紀に世界各地で流行していた「ヨーヨー」(日本では「手車」)や「ヤコブのはしご」(日本では「隠れ屏風」)を取り上げ、近世末の玩具が国際性をもっていたことを確認した後、身近な材料を使って隠れ屏風を製作しました。生徒たちは、5枚折り畳みの屏風のなかに粋な工夫が詰まっていると知り、この仕掛けを別の何かに応用するアイディアをそれぞれに思いついた様子です。―――2コマという短い時間でしたが、自身が親しんてきた玩具とは隔たりのある世界に触れ、近代的合理精神が席巻する前の、神々とともに暮らしていた時代の感性を肌で受け止めてくれたようでした。



そして今日は、香寺町内の短期大学からお招きを受け、乳幼児をもつお母さんたちに向けて「病魔を払い健康を祈る人形と玩具について」のお話にお伺いしていました。乳幼児死亡率が22~25%と非常に高かった時代、人々が盛んに贈答していた人形や玩具のお話です。お産の前から乳児を見守り、無事に誕生した後には枕元で邪気払いをしてくれる「天児」や「這子」や「犬筥」のこと、疱瘡除けとして贈答された「赤物」のこと、題材、素材、色、音、動き、それらすべてに疫病神という目に見えない存在への畏れと敬い、希望と願いが詰め込まれていたことなどをお話ししました。

病魔除け・疱瘡除けの「赤物」いろいろ


近代的な玩具に囲まれて子育て真っ最中のお母さんたちのお心に届くお話ができるかな…と不安に思っていましたが、医療や自然科学がまだまだ未発達であった時代、哀しみをこえて子育てに奮闘する人々が作り出した素朴な玩具の姿に思いやりに満ちたまなざしを注いでおられる若いお母さんたちに接し、時をこえて共感し合える親心というものをしみじみ感じました。このような機会をとらえ、忘れられた郷土玩具の世界を若い人たちへ伝えていきたいと思います。

(学芸員・尾崎 織女)

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