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学芸室から 2021.12.21

クリスマスの太陽~「世界のクリスマス展2021」より

明日は冬至。北半球では日照時間がもっとも短い日です。皆さんのご家庭では、ゆず湯や南瓜のお料理を準備しておられるでしょうか。
古代ヨーロッパにおいて、冬至に向かって太陽の光が弱くなる12月は、地面の下に眠る霊たちがこの世によみがえってくる季節。遠い昔の人々にとって、冬の闇の深さはどれほど恐ろしいものだったでしょう。再び、太陽が戻らなければ、この世は死霊にあふれ、すべての生命が絶えてしまう・・・。北極点に近い北欧の国々にあってはその恐怖はより強いものだったでしょう。人々は、太陽を力づけ、そのめぐりを早めようと、丸太や薪に火を放ち、冬至の祭礼を行っていたといいます。太陽よ、よみがえれ!と。

ユール・ログ(冬至の丸太)

そんな祈りが通じたかのように、冬至を過ぎると、また太陽は顔を出し、夏至に向かって日脚をのばしていきます。古代ギリシャやローマでは、12月25日前後、「永遠の太陽の誕生日」を祝う盛大な儀式が行われていたようです。キリスト教の伝播とともに、冬至を過ぎて再生した太陽を讃え、春への期待をふくらませる民俗的な心情と、この世に光をもたらすイエス・キリストへの信仰がとけあい、ヨーロッパ各地に奥行きのあるクリスマス行事が生まれたと考えられています。

太陽の光に憧れ、光を祝福する心は、二千年の時を経て生き続け、現在のクリスマスのオーナメント(=装飾)にも象徴的に表れています。

例えば、スウェーデンの「麦わら細工の太陽」は、窓に飾られるユール(=クリスマス)のオーナメントです。麦わらが巻かれた直径35cmほどの円形の中に麦束が十字を作り、その十字をたわわな麦穂が取りまいています。キリスト教が北欧に普及する中世のころまで、人々は土着の神々を信仰し、それぞれに異なった祭礼を行なっていました。大きな丸太「ユール・ログ」に火を放って、町中を光で満たしたり、豊穣を司る神に山羊や羊を捧げて生命の再生を祈ったり。スウェーデンやフィンランドなどのユールは、キリストの降誕を祝うと同時に、大地をよみがえりを促す太陽を讃える行事であり、主食である麦を育て豊穣をもたらす土地の精霊に収穫を感謝する心が秘められています。そうした重層的なクリスマスの要素を、スウェーデンの「麦わらの太陽」は表現しているように思えます。


ドイツやオーストリア、スイスなど、中欧の国々にも麦わらで手づくりされた光のオーナメントが見られます。麦わらを水に浸して軟らかくした後、赤や金の糸で縛ったり編んだりして、地域独自の形に作り上げていきます。こうしたオーナメントは、クリスマスが終わると、保存されることなく、灰にして麦畑にまかれました。写真にご紹介するのは1970~90年代の作品ですが、輝きはあせず、今年も展示室で厳かな光を放ち続けています。

麦わら以外の素材でも、太陽を表現するオーナメントの数々が見られます。パン細工、毛糸細工、柳の枝細工、硝子細工、錫細工、木綿レース細工、切り紙細工など、造形された小さな太陽を集めてみると、放射状にのびる光の筋や球体に込められたエネルギー、光の暖かさが国や地域の美意識によって提示されていることがわかります。そして、ひとつひとつのオーナメントから、生まれたばかりの新たな光を讃える心情が伝わってきます。ほんの一部ですが、画像でご紹介します。

「世界のクリスマス展」会場では、太陽の造形にもお心をとめてご覧ください。新年の希望に満ちた光を受け止めていただけることと想います。

(学芸員・尾崎織女)

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