クリスマスから新年へ | 日本玩具博物館

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学芸室から 2022.01.06

クリスマスから新年へ

あけましておめでとうございます。皆様には明るく穏やかなお正月をお迎えになられたことでしょう。当館では、壬寅歳を祝う「虎の郷土玩具展」や、正月遊びの友であった独楽や凧、羽子板を紹介する常設展を開催しているほか、展示室に播磨地方の松飾り(金玉飾り)や餅花飾りなどを施して皆様をお迎えしています。節分までは、華やかな新春の風景をお楽しみいただけます。


さて、本日、1月6日は「公現節(エピファニー)」。公現節は、東方の三人の博士(賢者)が、ベツレヘムの幼子イエスのもとを訪れたことを祝う祭日とされ、「降誕節(クリスマス)」から「大晦日(シルベスター)」、新年を経て<十二夜>を過ごしてきたクリスマス・シーズンもこの日をもって終わりを告げます。イエス・キリストが誕生したとき、空に大きな星が輝いたため―土星と木星が重なり合う天文現象があったそうです―、ペルシャの占星師たちは、❝その輝く大きな星は、この世の王となる大切な人の到来を告げている❞と占いました。カスパール、メルキオール、バルタザールの三博士(三賢者)は、輝く星の導きに従って、砂漠を越え、ベツレヘムの幼子のもとを訪れます。乳香と没薬と黄金の贈り物をもって。
中欧でも東欧でも、公現節の日、子どもたちが三人の博士に扮して家々を訪ね歩き、日本でいう❝門付け❞を行います。そして、訪れた家のドアにチョークで「K+M+B(三人の博士の頭文字)2022」あるいは、「C+M+B(ラテン語でキリストはこの家を祝福するの意)2022」と書き残していきます。


公現節に北欧で点される三叉のキャンドルは、「三人の博士(賢者または王様)のキャンドル」ともいわれ、三つの明るい灯のもとで、待降節から降誕節、そして十二夜の思い出ををふり返るのだといいます。

また、この日、フランスでは「ガレット・デ・ロワ(Galette des Rois)」、スペインでは「ロスコン・デ・レイエス(Roscón de Reyes)」、ポルトガルでは「ボーロ・レイ(Bolo Rei)」と呼ばれるお菓子(それぞれに「王様のケーキ」の意)が焼かれ、家族や職場でお茶会が開かれます。これらのお菓子の中には「フェーヴ/ファヴァ(そら豆の意)」がひとつ仕込まれていて、切り分けた自分のひと切れにフェーヴが入っていた人は王様あるいは王女様として祝福を受け、その日一日、王冠をかぶって家族や仲間に君臨するのです。その昔、太陽が生まれ変わる年の節目に、王様が家来となり家来が王様となり、主人が使用人となり使用人が主人となり、大人が子どもに子どもが大人に…と、賑やかにあべこべの社会を現出して秩序をぶち壊し、また新たな秩序を整えた社会をもたらそうとするユニークな祭りが行われていたといいますが、王様のケーキには、そうした旧習の面影が遺されているのかもしれません。
ネットに上がっているレシピや書籍を参考に、筆者も、ロスコン・デ・レイエスとガレット・デ・ロワを焼いてみました。フェーヴ(そら豆)の代わりにアーモンドをひと粒入れて――。かつて、ガレットの中に仕込まれていたそら豆は、生命力の象徴と考えられていました。新たな農耕カレンダーが始まる時節にそら豆が登場するというのは、来たる夏秋の豊かな収穫を祈念する意味があったのかもしれません。本来、そら豆だったフェーヴは、今では陶磁器製の小さな人形に発展し、意匠をこらした新旧のフェーヴをコレクションする人たちも少なくないと聞きます。

日本玩具博物館は、仏蘭西菓子の研究者や友の会の方々から寄贈を受け、フランス製のフェーヴをいくつか所蔵しています。現在は、堺 アルフォンス・ミュシャ館で開催中のテーマ展示「ミュシャが描いたクリスマス」に幾種類かを出品しています。会期は1月30日までありますので、よろしければお出かけ下さいませ。

堺 アルフォンス・ミュシャ館の展示風景 北フランスのフェーヴとアルザス地方の菓子のオーナメント

クリスマス・シーズンを終えて、いよいよ春に向かうとき。当館でも、1月23日に「世界のクリスマス展」が終了し、春の「雛まつり展」を準備してまいります。多くの皆さまに親しんでいただける博物館活動に努めてまいりますので、本年もどうぞよろしくお願いいたします。

(学芸員・尾崎織女)

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