97歳のいちまさん | 日本玩具博物館

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学芸室から 2022.04.10

97歳のいちまさん

🌸当館の庭には緋色の桃と純白の利休梅が満開。薄桃色の八重桜も蕾をふくらませて、まさに春爛漫の日曜日です。春の特別展「雛まつり~京阪地方の雛飾り~」は本日で会期を終えるのですが、名残の桃の節句を訪ねて三々五々、ご来館下さるご家族連れの穏やかなざわめきが展示室を心地よく包んでいます。

当館中庭の利休梅 4号館2階の窓から


🌸先日は玩具博物館に懐かしいお方をお迎えしておりました。1995年、当館では阪神淡路大震災の被災地から、ご家庭で持てなくなった雛飾りをお引き取りする活動を行ったのですが(一年間でなんと200件を超える雛飾りが寄せられました!)、この年にお会いした寄贈者の方々から、私たちはどれほど多くの糧をいただき、どれほど大事なことを学ばせていただいたでしょう。大正14年の源氏枠飾り雛を寄贈されたご婦人、小林嘉子さんもそのおひとりです。

1995年、被災地からの雛人形受け入れカード


🌸よく晴れてぽかぽか陽気のお昼前、小林さんは、ご家族のお車で来館されました。雛飾りと同じ大正14年のお生まれですから、御年97歳です。それを考えたら信じられないぐらい、小林さんの記憶は冴え冴えとしていて、初めてお会いした27年前の春のこと、小林さんのお雛さまのこと、1996年に開催した春の特別展「被災地からきた雛たち」に小林さんの源氏枠飾りを展示させていただいたところ、お隣の御殿飾りの寄贈者が女学校時代のご親友で、奇跡的な再会を果たされたこと、それから毎春のようにお二人揃ってご来館くださったこと、テレビ局の取材を受けていただいたこと・・・雛人形の展示室で、また春風が渡るランプの家の縁側で、思い出話に花が咲きました。2009年2月20日のブログ「学芸室から」にも、そんな思い出のひとコマを書かせていただいております。→こちら

🌸ご来館されることがわかっていたので、小林さんが特別に大事になさっていた市松人形を急遽、展示ケースのなかにお出ししていたら、「あぁ、私のいちまさん!」とひと目でおわかりになりました。「会えて嬉しい!こんな素敵なことがあるかしら…。いちまさんも私も97歳ね。」といちまさんに話しかけ、涙ぐまれる小林さん。いちまさんもほっこりとして嬉しそうに見えました。また、来年、雛飾りとともにお目にかかれますように。


🌸そんなふうに、雛人形が紡いでくれたご縁が行きかう春の日々を過ごしてきましたが、今夜から収蔵作業を行い、初夏の特別展「端午の節句~京阪地方の武者飾り~」に展示替えして参ります。4月16日のオープンを楽しみにお待ちくださいませ。

(学芸員・尾崎織女)

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