日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2022.03.28

高校授業出張「ちりめん細工」講座について

ひと雨ごとに暖かくなり、春の訪れを感じる頃となりました。
当館の庭には、トサミズキやサンシュユの黄色い花、ハクモクレンの白い花、コブシの淡桃色、ツバキの赤色や白色、桃色など色とりどりの花木が次々と咲き始めました。

一昨年に国内で初めて新型コロナウイルス感染者が確認されてから二年。緊急事態宣言や まん延防止等重点措置が何度も繰り返されました。私は、ちりめん細工講座や材料の通販に従事してきましたので、こんなに長期間の影響があるなんて思いもよりませんでした。

一昨年からちりめん細工講座は、遠方からの受講生やシニア世代の参加も多いことから、「三密」(密集、密接、密閉)を避けるため、休講が続きました。ちりめん細工講座は、昭和61(1986)年から毎年勉強会や講座を続けてきましたので、残念でしたが、命と健康を守ることを最優先に他のスタッフとも検討した結果でした。

他方で、昨年は、平成13(2001)年に開設しました「ちりめん細工」ウエブサイトのリニューアルに取り組みました。井上館長が『裁縫お細工物』の本に出合い、古作品や文献を収集。日本玩具博物館が1986年から展示活動や技術伝承活動を通して、その復興に取り組んできた歴史の重みを改めて実感しました。

はじめに
さて、2020年に「高校生にちりめん細工を伝承する」出張授業を行ったことがあるのですが、嬉しいことに前回に引き続き、今年も地元の県立高校から依頼がありました。1月~3月の合計6日間、家庭科の「ファッション造形基礎」授業の中で、ちりめん細工の歴史や作品について紹介しました。ちりめん細工は、江戸時代から着物の端裂を利用して「花」「人形」「動物」などのモチーフが作られ、ほとんどが袋物になっているのが特徴で、すべて手縫いで作られています。
授業での作品は、当館ちりめん細工スタッフの薦めもあり、ちりめん細工の技法「四つ縫い」や「四つ止め」を学べる「ちりめん細工の小袋」を選定いたしました。
材料セットは前回もお願いした、日頃からお世話になっている当館ちりめん細工スタッフが12種類の材料セットをご用意くださいました。
スタッフとも相談し検討した結果、今回は、今後も応用できるように、縫う前の段階の「型紙の作り方」「接着芯の貼り方」「型紙の配置」「布の裁ち方(裁断方法)」などの技術を基礎から学ぶ方法にし、担当の先生から以前に「(セットの色を変えて)好きな色を選ぶ方法があれば、(取り組み方も変わってくるでしょう)」とご親切に伺っていたので、今回のセットはすべて同じではなく、12種類の配色を用意いたしました。

伝統手芸「ちりめん細工の世界」が『BanCul』2022春号(姫路市文化情報誌)に紹介されました。

出張授業の概要
◇実施日:令和4年1月~3月(50分×6回)
◇科目名:ファッション造形基礎
◇対象生徒:2年次 12名(女子12名 男子0名)
館長がちりめん細工について著した資料を配布し、当館が取り組んできた「ちりめん細工の世界」を紹介しました。その後、生徒各々が選んだ材料セットで作り始めていただきました。

ちりめん細工を伝承する筆者
授業風景(中央筆者)

生徒の感想について
この授業で生徒が学んだことを学習効果も含めて、生徒全員のお礼状から抜粋して、紹介いたします。

―――『このような小さな物でも、すごく時間がかかり、大変なことを知り、驚きました。これから、大切に使いたいと思います。』
―――『ちりめん細工の歴史や作り方が楽しく学べました。知らないことがたくさん知れ、とても良い機会になりました。』
―――『特に、四つどめと四つ縫いのところが難しかったです。今回、学んだ縫い方、作り方でこれからたくさんの物を作っていきたいと思います。』
―――『また、作ってみたいです。』
―――『ちりめん細工がどのようにできているかを聞くだけでなく、実際に制作という貴重な機会をいただき、とても良い経験になりました。縫い方など、分からない所を丁寧に教えてくださり、本当に感謝しております。』
『ちりめん細工の歴史や手作りの大変さがよく分かりました。完成した作品はすごく可愛いので、とても気に入りました。これから大切に使おうと思います。』
―――『ちりめん細工の歴史やどんなものが多く作られているかを知ることができ、とても楽しかったし、勉強になりました。』
―――『貴重な体験をさせていただき、本当にありがとうございました。ちりめんや絹布の扱い方も勉強できたし、手作りの大変さも学べました。これからも大切に使わせてもらいます。』
―――『ちりめんの素材や歴史を知ることができて、ちりめんの良さが分かり、知ることができました。また、日本玩具博物館が高校の近くにあるとは知らなかったので、また行ってみようと思います。』
―――『今までに扱った事のないちりめんという素材にとても苦労しました。その分、完成した時の感動がとても大きかったです。』
―――『伸縮性の強い布や口べり、四つ縫い、四つ止め、ポンポン飾りなど、初めてのことが多く、作るのに苦労しました。ですが、このような授業がないと今後体験することができないものだったと思います。ちりめん細工を作るのは、とても楽しい時間になりました。友人や両親に自分の作った作品のことを話して、ちりめん細工のことを知ってもらおうと思います。今回作った小さな袋は大切に使おうと思います。とても楽しい講習をありがとうございました。』

高校生の皆様から頂いたお礼状

おわりに
新型コロナウイルス感染症の第6波は、感染力がより高いオミクロン株が主流となり、学校現場への影響はこれまでより深刻で、学級や学年の閉鎖が相次いでいました。そのような状況下でしたが、江戸時代から伝承されてきた日本の手芸文化・ちりめん細工の技法を伝えることができ、全員が無事に作品を完成することができたことは大きな喜びです。6日間という限られた時間でしたが、受講した生徒が、この伝統の技法を活用しながら、若い感性を応用して表現の幅を広げ、今後の充実した生活に役立てられることを念願しております。

[付記]
このような貴重な機会を与えてくださり、生徒全員が完成できたのも、多方面でご協力くださいました担当教員の先生のご尽力のお陰で、心から感謝しております。12名の生徒が能動的に学ぶことができるよう、授業環境の工夫や配慮していただいた担当教員の先生に心からお礼を申し上げます。

(学芸室・井上伊都子)

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