高校生に「ちりめん細工」を | 日本玩具博物館

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学芸室から 2020.02.01

高校生に「ちりめん細工」を

当館は長年、「ちりめん細工」をテーマに館内外で展示や講座、10冊以上も書籍を出版し、「ちりめん細工」の普及に精力的に取り組んできました。しかし、ここ数年、 関西一円 では初心者向けの講座を開催しても受講希望者が減っています。そのため、若い世代の方に「ちりめん細工」に興味をもっていただき、技術を伝えていくにはどうしたらよいかと考えていました。

そんな折、昨年、地元の県立高校の先生から「ちりめん細工」を家庭科(服飾手芸・ファッション造形)の授業で生徒に教えてもらえないかと依頼がありました。館長や学芸スタッフと話し合い、県立高校において伝統手芸の「ちりめん細工」を取り上げることはこれまでにない画期的な取り組みであり、地元の高校生の皆さんに当館の活動を知っていただくよい機会にもなると考え、協力させていただきました。

女学校の教科書として使用されたちりめん細工の指南書『裁縫お細工もの』(明治42年刊)

 
歴史をさかのぼれば、明治時代には女学校で「裁縫お細工物」を教えています。明治末期に女学校や裁縫塾などで教科書として使用された「裁縫お細工物」を1970年に当館館長が入手したのが当館の「ちりめん細工」普及活動の始まりでした。

私は玩具博物館と共に成長し、私自身も学生時代に「ちりめん細工」講座を受講しました。その後、カルチャーセンターなどで講師のアシスタントをしたことや、二十数年前には、アメリカの手芸愛好家の団体から招待され、講師の先生と一緒に「ちりめん細工」の講座を行い紹介したこと、現在は、「日本玩具博物館ちりめん細工の会」の事務局として講座を担当し、会員の皆様との交流をもっていることなどから、私が高校生に「ちりめん細工」を伝承することになり、私にとって、新たな挑戦でしたが、感謝の気持ちと謙虚な態度で臨みました。

ちりめん細工は一作品完成するのに1日はかかります。私が初めて作ったのは「桔梗袋」で、講座時間内(午前10時から午後3時まで約5時間)には完成できなくて、自宅に帰ってから仕上げた記憶が蘇ってきました。材料や道具を知り、型紙を写し(布地のタテヨコ)、布の裁断した後、手縫いをしますが、要所要所にポイントがあり、見えない箇所まで丁寧に仕上げると、嬉しくて「出来た(完成した)!」と思わず声を出し、袋の中にお香を入れ、飾ったことが昨日の事のように甦ってきます。

担当教員の先生から2科目それぞれ別の作品を依頼され、基礎技術を知ってもらい比較的簡単にできる作品として、1つは「桃袋」を選び、もう一つは、古典的な「梅の琴爪入れ」を選びました。館長と相談し、現代にアレンジした日常生活で使うストラップも考えたのですが、「ちりめん細工」と初めて出合う生徒もいるだけに、伝統的な作品で進めました。「ちりめん細工」には四季折々のモチーフがあり、打ちひもがつき袋物になっていることに驚かれるからです。

私はいくつかの作品を作り、どの作品にするか決めましたが、手縫いのため制限時間内では完成できないので、前もって型紙を写し布を裁断した材料セットを用意することになりました。本来なら、材料セットも私が用意すべきなのですが、日頃からお世話になっている当館ちりめん細工スタッフの奥平さんにお願いし、数日間かけて「桃袋」と「梅の琴爪入れ」のセットを用意していただきました。

先月9日、館長と私は地元の高校へ行きました。

高校生に話をする館長

先ず、館長が伝統手芸である「ちりめん細工」について解説し、当館が約30年以上にわたり復興活動に取り組んできたことを伝えました。2018年1月に開催した「ちりめん細工の今昔」展(たばこと塩の博物館[東京])のリーフレットをテキストに話をし、江戸時代や明治・大正時代のちりめん細工の話や、当館の平成時代のちりめん細工の取り組みでは季節感あふれる作品を紹介し、生徒に興味や関心をもってもらいました。

実習では、7名の高校生が「桃袋」を制作し、15名の高校生が「梅の琴爪入れ」に取り組んでくれました。「桃袋」は1日のみでしたが、「梅の琴爪入れ」は数日間に分けて、宿題もこなしていただきながらの実習になりました。両方の実習に参加してくれた生徒は、仕上げた「桃袋」を持参し見せてくれました。内容を理解して、コツをつかんで、作品を完成されて、「梅の琴爪入れ」もきれいに仕上げられていました。基礎技術を盛り込んだ作品ですので、別の作品作りにも応用し、この体験を活かしてほしいと願っています。

先日、このプログラムを実施された担当教員の先生からお礼のメールが届き、「伝統的な手芸の技術を学んだ」「郷土を愛する気持ちが高まった」「本物の良さを知ろうとする気持ちが芽生えた」など嬉しいメッセージとともに写真を送ってくださいましたので、紹介いたします。


当館がちりめん細工の普及に取り組んだ三十数年前頃は、「ちりめん細工」という言葉もなく、欧米から入ってきたパッチワーク(布を合わせてデザインする)が主流で、巷に溢れて人気でした。日本にも江戸時代から伝承されてきた「裁縫お細工物」(ちりめん細工)があり、四季折々に「花」「動物」「人形」「袋物」を制作してきたことや、当館の展示活動を紹介しましたが、これまでの伝統文化復興活動を高校生に紹介できたことは大きな喜びです。
数日間の授業でしたが、担当教員の先生や生徒と共に活動し、学校現場を知り、貴重な経験をさせていただきました。特に、生徒への接し方や指導方法を次回は改善したいと考えています。


そして、生徒の育成や当館との交流、技術の伝承などを継承し発展させるために、今後も研鑽し、ちりめん細工普及活動に協力できたらと思っています。
最後になりましたが、今回の取り組みは、博物館スタッフの協力なしでは成し得なかったことを実感し、私を支えてくださった皆様に心からお礼を申し上げます。

(学芸員・井上伊都子)

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