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学芸室から 2023.02.17

来館者のまなざし~「雛まつり展」会場にて

季節は立春から雨水へ。中庭では、万作が樹々に花を咲かせ、落ち葉のなかから福寿草が枯れ色の地面に明るくつややかな黄色を広げています。

福寿草開花

新型コロナウィルス感染症とのお付き合いも4年目に入り、注意を払いながらも、人と人とが集い、ともに動く社会が少しずつ取り戻されるに従って、当館にもコロナ前のような賑わいが戻ってきました。先日は、JICAから留学生(研修生)の皆さまをお迎えしました。井上館長が独力で築いてきた当館の成り立ちや歴史について、留学生の皆さんは関心をもたれたようで、数々の質問を投げかけつつ近代玩具史のコーナーを見学され、プレイコーナーでは童心に返り、さらに雛人形展では日本の春らしい世界を興味津々のまなざしでお楽しみくださいました。
春恒例「雛まつり展」展示解説会も始まりました。第1回目の解説会では、雛人形たちの表情の豊かさをご紹介したのですが、参加の皆さまには、一組一組の雛たちの来歴にも思いをめぐらせ、しっとりとした時間をお過ごしくださったようです。2月26日(日)、3月12日(日) 、4月2日(日)にも予定しております(各日、2時30分から)。日時をあわせてご来館くださいませ。

さて、その「雛まつり展」の<江戸時代のお雛さま>を紹介するコーナーには、雛屏風を立てまわして、立ち雛や享保雛、古今雛、合計18組の内裏雛を展示しています。2組の享保雛の背景には『源氏物語』の名場面が描かれた江戸末期製の六曲一双の雛屏風を立てているのですが、先日、閉館間近の時刻に展示室を通りがかると、❝大の猫好き❞とおっしゃる来館者がその雛屏風の右隻の前で長時間、目を凝らしておられました。話しかけてみると、屏風絵の中に描かれている小さな小さな猫を、できれば近くで観たいとおっしゃるので、閉館後、享保雛を少し動かしてそっとご覧いただきました。――それはそれは喜ばれ、小さな猫の絵を名残惜しそうに目に収めて、帰っていかれました。

江戸後期の享保雛展示コーナー 
雛屏風(「永春斎 正盈筆」とあります)の右隻――「若菜」の巻の一場面が描かれています

雛屏風の右隻は「若菜」の巻の上。―――光源氏のもとへ降嫁した女三宮に思いを寄せる柏木は、源氏の屋敷、六条院の庭で若い公達と蹴鞠を楽しんでいました。運命のいたずらか、女三宮の飼い猫をつないでいた紐が引っ掛かって御簾がめくれあがり、一瞬、室内が丸見えになってしまったのです。図らずも、恋焦がれていた女三宮の姿を見てしまった柏木は、いけないこととは知りながら、自らの恋心を止められなくなるのでした。―――という有名な場面が描かれています。江戸時代の終わり、この雛屏風の前で桃の節句を楽しんだ女性たちは、『源氏物語』が物語る恋について思いを馳せ、物語の感想を述べあったりしていたでしょうか。雛屏風の小さな絵を拡大しましたので、猫好きの方には、こちらの画像をご覧ください。

ご来館の方々には、各コーナーに設置しているQRコードによる解説なども合わせて、展示中の雛人形や雛道具の細部にも目を留めていただければ幸いです。

(学芸員・尾崎織女)

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