「カルタ(carta)」と「ナイペス(naipes)」 | 日本玩具博物館

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学芸室から 2023.06.03

「カルタ(carta)」と「ナイペス(naipes)」

♠先日は、当館を観覧されたスペインからの来館者が、プレゼントしたいものがあると宿泊中のホテルまでわざわざ取りに戻られました。当館からJR香呂駅まで徒歩で15~18分、そこから播但線で姫路駅まで15分、あまり本数のないローカル線のこと、往復には1時間以上かかります。なんとお心の深いことでしょうか。―――当館へのプレゼントはスペインのトランプ「ナイぺス(Naipes/baraja española)」でした。筆者は残念ながら、館を留守にしていてお会いできなかったのですが、その方は、世界中の玩具や遊戯具に熱いまなざしを注いできた当館の思いを感じとり、自国伝統のカードゲームを寄贈することで、私たちへの友情を示されたのではないでしょうか。
ーーいただいた「ナイぺス」がこちらです。

*寄贈を受けたスペインのナイペス(baraja naipes) フルニエ(Fournier)製

日本人が親しんできた英米式トランプ(playing card)のスートは、スペード♠、ハート、クラブ♣、ダイヤで、それぞれが13枚ですが、ナイペスのスートは、copas (カップ/聖杯)、oros (金貨)、espadas(剣)、bastos (棍棒)で、それぞれが12枚。それからcomodín(ジョーカー)です。

♣近世初頭、ポルトガルから伝来したカードゲーム「カルタ(carta)」をもとに「天正かるた」や「ウンスンかるた」などが生まれていますので、ポルトガルの隣国であるスペインのナイペスと近世前期の日本のかるたには共通性があります。

*江戸時代前期の「ウンスンかるた」復刻版(大石天狗堂製)

上の画像が大石天狗堂復刻版の「ウンスンかるた」です。「ウンスンかるた」は、ポルトガルから伝わったカルタのコツ(聖杯)、ハウ(金貨)、イス(剣)、パオ(棍棒)の4スートに、グル(巴紋)をプラスして5スート、それぞれに15枚です。絵札のなかに日本的な福神(ウン)、唐人(スン)などが加わっていますが、どのスートもこれだけを見ていると、とても不思議なデザインです。それがスペインのナイペスと見比べると、グル(巴)以外のスートが何を表しているのかがよくわかり、時をこえて近世の和製かるたデザインのふるさとに生きる末裔たちに巡り合ったようで、とても嬉しい気持ちになります。プレゼントしてくださったスペインからのご来館者に御礼申しあげます。

*棍棒・剣・金貨・聖杯(ウンスンかるたの聖杯はデザインがひっくり返っています)

♠さらに、ナイぺスを眺めていると、中国の麻雀牌の「筒子(ピンズ)」がナイぺスの金貨のデザインと、「索子(ソウズ)」が剣や棍棒のデザインとよく似ていることに気づきます。中国の「葉子(馬弔)」という麻雀牌のもとになったカードゲームが南ヨーロッパに伝来して、スペインをはじめとするヨーロッパのカードが誕生したという説もあるようですから、東西の遊戯札のデザインには、文化交流のあとが遺されているのかもしれませんね!

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そして先日は、資料熟覧を申し込まれていたアメリカ人研究者・Kさんに、「愛国イロハカルタ」や「兵隊さんイロハカルタ」をはじめとする戦時中の資料や戦前のカルタなどをお目にかける機会がありました。
♣❝イセノカミカゼ テキコク カウフク❞ ❝ロバタデキク センゾノハナシ❞ ❝〝ハイ〟デハジマル ゴホウコウ❞ーーー「愛国イロハカルタ」は、太平洋戦争の戦況が悪化した昭和18年、「次代の日本を担う少国民の心構えを育て、愛国の念を涵養する」ために公募され、日本玩具統制協会が発行したものです。約26万の応募句から選ばれた読み札には「皇国民錬成」のスローガンが並びます。平易な語句を唱えながら、楽しくかるた遊びを繰り返すことで、子どもたちを戦時下体制へと組み込んでいった当時の世相を映す資料です。これらをKさんの研究的視点でゆっくりとご覧いただくことができました。

当館所蔵の歌かるたやイロハかるたなど、たくさんのカルタ資料が登場したところで、Kさんのご要望により「花札」の遊びを伝授しました。天正かるたの流れを汲む地方版かるたが賭博と深く結びついていたことで幕府の禁令が繰り返され、「花札」はその厳しい禁制をかいくぐる抜け道として18世紀終わりに考案されたものといわれています。けれども、花鳥風月をデザインした花札もまた賭博に使われることとなりました・・・。―――日本語堪能なKさんはすぐに❝花合わせ❞の遊びもマスターされました!

*来館中のKさん、花札を見る

♠このように、博物館に居ながらにして様々な国の文化に関われる日々が戻り、一同、嬉しく思っています。

(学芸員・尾崎織女)

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