絵本の世界と玩具~メキシコと中南米の民芸玩具展より | 日本玩具博物館

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学芸室から 2023.07.19

絵本の世界と玩具~メキシコと中南米の民芸玩具展より

絵本作家・堀内誠一さんとメキシコの玩具

絵本作家、デザイナー、アートディレクターとして活躍された堀内誠一さん(1932~1987)のお嬢さまが玩具博へ来館され、「メキシコと中南米の民芸玩具展」へのステキなメッセージを添えて、お父さまのエッセイ集『ここに住みたい』(堀内誠一著/中央公論新社・2022年刊)をプレゼントしてくださいました。

『ぐるんぱのようちえん』『たろうのおでかけ』『くろうまブランキ―』など、堀内さんが手がけられた名作絵本は数々あれど、私が一番に思い浮かべるのは『こすずめのぼうけん』に登場する子雀のあまりにかわいらしい姿と雀の母子の情愛あふれる画面。――その堀内さんは、メキシコを旅して、民衆が手作りして市場などで販売している玩具のなかに「ちょっとした材料で実に気の利いたもの、可愛らしいもの、美しいもの」を見出しては手元へ集めていかれたそうです。そして、『ここに住みたい』の「メキシコ」の章(1984年)では、挿絵入りで、メキシコ玩具への感慨を綴っておられます。「ーーー残酷な自然、残酷なマヤ・アステカの宗教に続く、さらに残酷な時代を通して、民族の反骨と生活の喜びを表現し続けたのは、こうしたおもちゃの創意ある造型と可憐な優しさ、笑いのエネルギーによってだった」と。畏れ多くも、我らが意を得たり!と嬉しくなる文章です。

『ここに住みたい』(堀内誠一著/中央公論新社・2022年刊)メキシコ玩具の図版――勝手ながらページを写真に撮らせていただきました。

この図版右下の黒い悪魔「ディアブロ」は非常に興味深い人形です。赤いディアブロと同様、西洋の悪魔のイメージで造形されてはいますが、ディアブロの片足には三つの指が作られているのに、もう片足には指がありません。ふと思い浮かべたのは、15世紀前半ころから16世紀のスペイン侵攻まで、メキシコ中央部に文明を築いていたアステカの人々が伝える壮大な創生神話です。そのなかで強大な力をもつ神「テスカトリポカ」は、全身が黒く、大地の怪物と戦って右足を失ったと語られるそうですね。スペインの入植後、キリスト教への改宗を迫られるなかで、土着の神々が徐々に悪魔に変えられてしまったとすれば、この写真の黒いディアブロは、暗にアステカの神「テスカトリポカ」を表しているのかもしれません。(指がないのが左足というのが気にかかりますが…。)表情は、日本の鬼にも似ていますね!
残念ながら、黒いディアブロは当館の所蔵品には含まれてはいません。けれども、このご本の図版(写真)に掲載された民芸玩具をみると、今回の特別展で紹介しているのと同様の品々もあり、玩具たちを介して偉大な方との距離が急にぐんと縮まったようで、とても幸せな気持ちになります。下記の画像と比べてご覧ください。

現在、堀内誠一さんのお仕事をたどる展覧会が、ひろしま美術館と福井県ふるさと文学館で同時に開催されています。お近くの方々はぜひ! 私もこの機会に美術展を見学し、民芸玩具と絵本世界とのこころのつながりを感じてみたいと思っています。



展示室に中南米各地の絵本を置きました

堀内さんの玩具への温かなまなざしを得て、「メキシコと中南米の民芸展」会場に、各国の玩具が登場する絵本や民話に取材した絵本を設置したく思い、古書店などでいく冊かを求めました。下記の写真が今、展示室でご覧いただける絵本です。

それぞれの地域の展示ケースの前にこれらの絵本を置いていますので、お手にとってご覧いただき、展示品の背景に広がる国々の自然や親しまれている動物たち、祭礼や精神文化についても思いめぐらせていただければ幸いです。初秋には展示会場での絵本朗読会も企画したいと思っています。ご期待くださいませ。

(学芸員・尾崎織女)

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