四季折々の草花遊び | 日本玩具博物館

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学芸室から 2024.06.28

四季折々の草花遊び

二十四節気「夏至」に入り、日暮れの時刻がぐんと遅くなりました。
北欧の国々では太陽の季節、❝夏の頂点❞を祝い、緑の中で休日を過ごすのだそうですね。夏至の日の草花には特別な霊力が宿ると信じられ、女性たちは、一年の健康を願って花を摘み、花かんむりを作るといいます。7種類の花を夏至の夜に枕の下に置いて眠ると、夢の中に未来の夫の姿が現れるという言い伝えもあると伺いました。7種類というところ、1月7日の人日の節句にいただく七草粥や七夕の七遊などを想い起させ、不思議なつながりを感じます。――北欧の方々の喜びに思いをはせ、また来る本格的な夏季の健康を祈って、7種類の草花を摘み、花かんむりを作りました。7種類は、野のシロツメグサ、タンポポ、ユウゲショウ、ドクダミ、ノイチゴ、ヒメジオンと庭のアジサイ。それに、日本らしく邪気を払うというナンテンの花を加えたら、8種類になってしまいましたが……。

多くの皆さまは子ども時代、白詰め草の花輪を編んで、かんむりに仕立てたり、また首飾りとして楽しんだりした思い出をおもちのことと想います。春から夏にかけて、野に様々な花が咲き揃いますので、白詰め草などのやわらかく、しなやかな茎をもつ植物を本体として編みすすめ、そこへ他の花々を差し入れていくと、折々の彩りに満ちた素敵な花輪ができあがると思います。小さな子どもたちにぜひ、プレゼントしてあげてください。―――花輪の彩りと特別な何かを贈られた喜びは、いつまでも子どもたちの心に残されるはずです。


さて、先日は、地元のこども園の子育て教室の皆さまからお招きを受けて、草花玩具(自然玩具)や草花遊びのお話にお伺いいたしました。子ども時代、草花で玩具を作ったり、遊んだりされた思い出をおもちですか? また、子どもたちは今、自然物を何かに見立てたり、加工したりして遊びを楽しんでいますか?―――お母さま方へのそのような問いかけからはじめ、春夏秋冬、播磨地方をはじめ、日本各地に伝承されてきた草花遊びを紹介していきました。

春は、ペンペングサ(ナズナ)のがらがら、レンゲソウの首飾り、シロツメクサの花かんむり・首飾り、花びら占い、四つ葉のクローバーの幸せさがし、オオバコ相撲、タンポポの風車、水車、スズメノテッポウの笛、イタドリの笛、カラスノエンドウの笛、メヒシバの日傘、菜の花雛・タンポポ雛・・・。

夏は、笹舟、笹アメ、麦わら細工(ホタルかご・花かご・馬・笛)、ホウノキの葉のお面・風車、カンゾウの水車、カシワの葉の凧、カヤツリグサの蚊帳、きびがら姉さま、フキのひしゃく、(南国に伝承される)ソテツの葉の虫かご、松葉と椿の葉の虫かご、薔薇のトゲ遊び、オシロイバナ遊び、(南国に伝承される)カンゾウの葉のカタツムリ、ホオズキ人形・ホオズキの実の口中笛、ススキや棕櫚細工のバッタ、七夕やお盆に供える野菜細工(胡瓜の馬・茄子の牛・茗荷とホウセンカの鶏)・甜瓜の提灯など。

秋は、ジュズダマの首飾り・腕輪、彼岸花の首飾り、木や草の実の竹鉄砲、松ぼっくりの人形や動物、どんぐり独楽やヤジロベエ、木の実の笛、柿の葉の人形、あぜ豆細工(神輿・百足・虫かごなど)、ススキの穂のミミズクなど。

冬は、雪うさぎや雪だるま、松葉相撲、椿の葉や花の遊び、竹細工、正月や小正月のための稲わら細工など。  

こうした自然の中の玩具には、いくつかの成り立ちがあり、❶麦わら細工や草人形のように、大人や年長者が子どもに作り伝えたもの、❷かつては大人も子どもも両方が行っていただけれど、大人がやめたあとも、子どもの遊びのなかに遺されたもの、❸ままごとやお花のごちそうのように、大人のまねごとをしてこどもたちが創出したもの、❹オオバコ相撲やスズメノテッポウの笛のように、子ども自身が自然観察のなかから生み出したもの、――この4種類が考えられます。
これらのうちのいくつかは、太古から伝承されてきたのではないかと想われますが、束の間、手のひらの上で愛された後は、すぐに土に返ってしまって遺されることがありません。さらに歴史時代に入っても、記録されることが少なく、いつごろから存在したかを明確にするのは非常に困難。ただ、平安時代から鎌倉時代の和歌には、笹舟や麦笛、草笛などが四季折々の情感とともに詠み込まれており、当時、それらが子どもにも大人にも親しまれていたことが想像されます。たとえば、西行法師はこのような和歌を詠んでいます。

うなゐこが すさみに鳴らす麦笛の 声におどろく夏のひるふし(西行法師『夫木和歌抄』/鎌倉時代後期)

自然のなかの遊びに意味を求めると、例えば草花の色、音、手触り、匂い、味――五感を働かせて対象を観察し、何かに見立てたり、完成した姿を想像したりしながら造形することで、モノづくりの喜びを知り、美意識の基礎が自然に具わっていくのではないかと思われます。また、手先の巧緻性が養われ、自然の基本的なしくみを楽しみながら体得できるのではないでしょうか。

講座のあと、若いお母さまたちからは嬉しい感想をいただきました。――子ども時代を思い出し、日々のあわただしく忙しい暮らしのなかで、すっかり見落としていた足元の大切なことに気づきました。道端の草花に目を向けることで子どもたちの世界をひろげてやりたいです。さっそくこどもたちと「麦わらの踊り子」を作ったところ、大喜び! ―――などなど。

年長の子どもから年少の子どもへの「伝承」が難しくなっている今、大人たちの役割は大きいと思います。ちょっとしたヒントで子どもたちは、夢中になってスズメノテッポウの穂やカラスノエンドウの鞘を集めたり、お面になりそうな大きな葉を探したりして季節感を味わいます。ささやかな遊びの伝承を通して、祖先や地域と結びつき、個人のルーツを確かなものにできますように…。

(学芸員・尾崎織女)

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