テーマは自然感(naturalness)あふれるクリスマス~冬の恒例展「世界クリスマス紀行」オープン | 日本玩具博物館

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学芸室から 2026.11.01

テーマは自然感(naturalness)あふれるクリスマス~冬の恒例展「世界クリスマス紀行」オープン

●10月19日から10日間ほどかけて、「ふるさとの節句人形~上巳・端午・七夕~」の展示品を梱包収蔵して、展示室の撤収・清掃活動を行い、設営作業ののち、冬の恒例展「世界クリスマス紀行」の展示作業を行っておりました。井上館長が42年前に発案企画して1号館で始まった「世界のクリスマス展」を支えるコレクションは、クリスマス文化を愛する方々のご協力によって大きく育ち、当館なりのクリスマス文化へのとらえ方と展示における表現方法を獲得していきました。今年も、無事、クリスマス展をオープンできたことに感慨深さをつのらせているところです。

*「世界クリスマス紀行」2026展示風景

●先週末、展示を仮オープンして、今冬初めて展示室に入ってこられた方々が「わぁ~、きれい…。穏やかで厳か。」「自然色がいっぱい!!」と歓声をあげられました。今年のテーマは、キリスト教における降誕祭が始まった南欧を皮切りに、中欧、東欧、北欧の欧州地域に加え、北米、中南米、アジア・オセアニア、中近東・アフリカ…と、各地伝承のクリスマスオーナメントを通して、地域ごとに特徴あるクリスマス風景を描くことにありますが、展示室全体を包むイメージには“自然感あふれるクリスマス”を設定していましたので、さっそく、私たちのイメージを共有し、受け止めてくださったことを嬉しく思いました。

●今回、展示室には大小72本のモミの木(模造品)を立て、各地に伝承されるオーナメントを展示しました。今日につながるようなモミやトウヒなどのクリスマスツリーは、森の民・ゲルマンが暮らす中欧に始まったとされています。伝説によると、8世紀、聖ボニファスが布教のため、樹木信仰の盛んな土地の人々にとって神聖とされたカシの木を倒し、新しい信仰を象徴するものとしてモミの若木を提示したといいます。その意味ある樹木を室内に持ち込み、オーナメントをつるすようになったのは16~17世紀頃のアルザス地方(フランス北東部でドイツと国境を接し、住民の大部分はドイツ系)とされています。パンの文化史研究者の舟田詠子さんは、フライブルク市(ドイツ南西部の都市でアルザス地方に接する)の古文書館で精霊病院のクリスマスツリー用の請求書を調査するなどして、近世初期のクリスマスツリーには、オブラーデンなどの平らな菓子やリンゴなどが吊るされたことを明らかにしておられます。

●当館では、中欧から東欧、北欧へ、また新大陸アメリカを経て、南欧へと拡がっていったクリスマスツリーの姿を求めるうち、家庭におけるオーナメントには、初期のツリーに見られるような食べ物に関する造形が非常に多いことに気付きました。フランス・アルザス地方からはパンデピス、ドイツやオーストリアからはスぺクラティウスなどと呼ばれる型抜きクッキーのオーナメント、ポーランドからはピエルニクと呼ばれるスパイシーなクッキーのオーナメント、チェコ東部ヴィゾヴィツェに伝承されるパン細工のオーナメント、またハンガリーからはクルミの殻を細工したもの、セルビアからはドングリや木の実細工のオーナメント、麦わらやトウモロコシの皮を用いた小さな造形も各地から集まってきました。緑をたたえるモミの木に、木の実やパンがたわわに付けられたクリスマスツリーは、夏の生命力を象徴するものであり、森の恵みと畑の実りをそれぞれの地の自然神に捧げて、来る年の豊穣を祈る供物とも考えられます。


●小麦やライ麦のパンは欧州の主食であり、大麦は麦酒の原料や牧畜の飼料にも欠かせない作物です。北欧や東欧のクリスマスには、新年の健康を期して、床に麦わらを敷いて寝たり、豊作祈願の麦わらを畑にまいたりする風習が残されています。一年の農耕暦が終息するクリスマスに、麦穂や麦わら細工、無発酵(清浄であることを意味します)のパン細工が登場することの中には、人々の生命を支え続けてきた麦を重んじ、麦に実りをもたらす穀物霊を敬う心情が表現されているのではないでしょうか。


●常緑樹、木の実、穀物に関わるもの―――これらは、クリスマスオーナメントの基本を支え、収穫に感謝し、来る年の豊かであることを願う北半球の冬の祭りに共通して登場するものだと思われます。時代とともに、それらは保存に適する素材で再現され、各地の民芸と結びついて木彫や陶器、切り紙細工、硝子、錫、木綿レースなどで手作りされ、やがて合成樹脂(プラスチック)を用いて量産へと向かっていきました。けれども、その原点には、人間に恵みを与え、生命を支える自然があります。———門松(常緑樹)、稲わら(注連飾りなど)、餅、橙や蜜柑などが登場する日本の正月もまた、新しい年神や農耕神を迎え、豊穣を祈るための造形であることを考えると、正月とクリスマスは互いによく似た要素をもっていることに気付かされます。

●本展では、世界各地の素朴な品々のなかに、このようなクリスマス・オーナメントの原点を感じていただきたいと思います。

(学芸員・尾崎織女)

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