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学芸室から 2018.10.30

煌めきの「世界のクリスマス」展★おすすめ鑑賞コース

日本玩具博物館恒例の冬の特別展「世界のクリスマス」が始まりました!
今年は、「ヨーロッパ~北欧・中欧・東欧・南欧」、「アメリカ~北米・中南米」「アフリカ」「アジア」「日本」と地域ごとに展示いたしておりますので、クリスマス飾りに彩られた各地のクリスマス風景を通して、世界をめぐることができます。
――――ということで、日本玩具博物館2018年度「世界のクリスマス」展のおすすめ周遊コース2つをご紹介したいと思います。^^ノ

1つはキリスト降誕人形に注目して西室をぐるりとめぐるコース。
6号館を入るとすぐ右手に南ヨーロッパのクリスマスの風景が現れます。キリスト降誕人形発祥地のイタリアからスペイン、ポルトガルとカトリックを信仰する人々が多いお国柄、キリスト降誕の物語を伝える馬小屋や人々の装いなど、その造形にはこだわりが感じられます。それぞれの人物のリアクションや表情が多様なのは、陽気な南ヨーロッパの雰囲気をうけてのことかもしれません。
ここで15世紀の大航海時代へと時をさかのぼります。スペイン・ポルトガルを中心にヨーロッパが世界進出を目指すなかで、中南米やアフリカ、アジアへのキリスト布教活動が盛んになりました。言葉が異なる人々への布教にキリスト降誕人形は有効だったようです。ペルーやメキシコのレタブロ(箱型のキリスト降誕人形)には先住民の自然信仰とキリスト教との融合が、アフリカでは現地の人々の生活に溶け込んだキリスト降誕物語が伺えます。南洋の島国、フィリピンの降誕人形は、馬小屋のそばのヤシの木が印象的です。

さて、日本にキリスト教を伝えたのも大航海時代のポルトガルです。1549年にイエズス会の宣教師としてやってきたフランシスコ・ザビエル(「ザビエル以後よく来る」と覚えましょう(笑))が、その年にクリスマスを祝ったのが最初だといわれています。2005年にイタリアで開催されたキリスト降誕人形の展覧会のために特別に作られた宮崎県の佐土原土人形のキリスト降誕人形は、九州という土地柄もあり、その姿は隠れキリシタンを思わせます。
キリスト降誕人形の広まりに思いをはせてめぐってみてください。


もう1つのコースは、ツリー飾りに注目して東室をぐるりとめぐります。今年は、小さいものから3mの特大のもの、壁に飾れるものまで合わせて70本以上のクリスマス・ツリーを展示しています。アルザス地方からドイツ、中欧ヨーロッパ、東ヨーロッパ、北ヨーロッパとツリー飾りをめぐっていきましょう。

出発地点は西室の南ヨーロッパコーナーのアルザス地方の赤いガラス玉のツリー。クリスマス・ツリーの発祥地のひとつはアルザス地方だといわれています。この地では古くからクリスマスに赤いリンゴをモミの木に飾っていましたが、1858年の大不作の年、ガラス職人が赤いガラス玉をリンゴの代わりに付けたのが好評で、その後クリスマス・ツリーの定番のひとつとして、さまざまなガラス玉が飾られるようになったそうです。そのアルザス地方は現在フランス北東部の町ですが、歴史的な背景もあり、ドイツの文化が根付く町でもあります。

そのまま東室に向かうと、ツリーには、テディベアや聖ニコラウスをかたどったビスケットや松かさをモチーフにした飾りが見られます。初期のクリスマス・ツリーには、リンゴなどの果物とともに、レープクーヘンやオブラーテンなどの平らな菓子、クッキーや、木の実が吊るされていたそうで、食べ物とツリー飾りは切り離せそうにありません。
チェコには、小麦パン、ハンガリーにはクルミの殻を細工したもの、セルビアからはドングリや木の実細工のツリー飾りが見られます。また、ヨーロッパ各地でみられるトウモロコシの皮や麦わらのツリー飾りが見られます。麦は、パンやビールを生み出し、飼料ともなり、ヨーロッパの人々には欠かせない穀物です。祖先や穀物霊に今年の収穫に感謝し、翌年の豊作を願う、古代ヨーロッパの風習がツリー飾りとしても受け継がれています。そして北ヨーロッパや中欧ヨーロッパの麦わら細工のツリー飾りに多く見られる光のモチーフには、寒く暗い冬が続くこの地域の古代の人々の太陽の復活への祈りも感じることができます。

ドイツのクッキーのオーナメント

そしてツリー飾りからは、各地の手工芸を知ることもできます。ドイツのマイスターが作る木工細工、オーストリアの錫細工、チェコのガラス細工、デンマークの切り紙細工、メキシコのブリキ細工、南アフリカのビーズ細工など、技術と知恵がつまった手工芸は、自然素材のツリー飾りとはまた異なる趣で、その土地の感性の豊かさを伝えてくれます。

中部ヨーロッパの錫細工やレース細工のツリー飾り
東ヨーロッパの麦わら細工パン細工など自然素材のツリー飾り

おもちゃ館のクリスマス展では約1,000点の資料をご紹介しています。ひとつひとつをじっくりご覧いただくのもなかなか大変かもしれません。そんな時は、ご紹介したコースを参考にめぐっていただくのもいいかもしれません。ぜひ、クリスマス飾りを通して、世界各地のクリスマス風景をお楽しみください。

(学芸員・原田悠里)

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