日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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学芸室から 2013.01.30

春を呼ぶ展覧会

粉雪がちらつく冷たい日々が続いていますが、博物館の庭の蠟梅がつぼみを膨らませ、他の木々に先んじて、香りの春を告げています。

学芸室では、先週火曜日の閉館後から6日間の深夜仕事を続けて、春恒例の特別展「雛まつり~御殿飾りの世界~」の準備作業を行っていました。世界のクリスマス展の収蔵作業もなかなかに手間のかかる大仕事ですが、雛段を組み、緋毛せんを敷き詰めた展示ケースの中、百年以上前の雛人形や細やかに作られた雛道具の数々を並べ飾るのも、楽しいながらに骨の折れる作業です。集中して疲れてくるせいもあるかと思うのですが、夜が更けていくと、展示ケースの中が何やらざわざわしはじめ、古雛たちの“うふふ”“ほほほ”という小さな声が聞こえるときがあります。月亮が煌々として、冷える夜はとくに…。―――こんなことをお話しすると、少し怖く思われるでしょうか?

江戸時代後期・弘化年間(1844~47)の古今雛

さて、今年の雛まつりは、御殿飾り雛に焦点をあてました。幕末から明治・大正時代を経て、御殿飾りが京阪地方から広く西日本一帯に普及し、ほどなく消えていった昭和30年代までの移り変わりを豊富な資料を通してご覧いただく企画です。昨年度と一昨年度に、いくつかの個人のお宅から立派な檜皮葺(ひわだぶき)御殿飾り雛を数組寄贈いただいておりましたので、今回はそれらのお披露目も兼ねたものとなっています。それらの新収蔵品は、製作年代や製作者、販売者が明記された資料であることから、明治末から大正時代、さらに昭和初期にかけて、大都市部の町家にどのようなカタチで御殿飾り雛が存在していたかを、以前より明解に描くことができるようになりました。

檜皮葺御殿飾り雛(大木平蔵・京都製/大正11年)

さて、雛飾りの展示をするときには、展示ケースの奥行がもう50cm広ければといつも思います。もっと段を高く組み、諸道具類をずらりと手前に並べたい。けれど、奥行90cm、ガラス窓の高さ180cmの展示ケースでは、大きな御殿飾りは二段にするのが 精一杯です。大型の御殿を上段に建て――文字通り、建てるのです!!――雛人形たちをその御殿の中に住まわせ、二段目以降にずらりと雛道具や添え人形を並べ飾られた様子をなんとか表現できないかと考え、今回は一部ですが、御殿飾りを行った展示ケースの手前にぴったり平ケースを設置して、そこに下段に置かれる雛道具や雛料理の器などを展示してみました。露出した状態で長く飾るのは問題があるため、アクリル・カバーをかぶせていますが、御殿飾りの豪華な様子が少しでも伝わるのではないかと思います。いかがでしょうか。

檜皮葺御殿飾り雛(大阪製/昭和9年)

そんなふうにして完成した今年の雛人形展は、展示室に雛御殿の街並が出現したような有様です。夜の展示室、雛御殿が立ち並ぶ町に雪洞(ぼんぼり)の灯を点しました。古雛たちの白い顔がほんのり暖かく、ゆらゆらと…。何度めぐりきても、その春が嬉しいように、何度、雛人形展をオープンしても、その度ごと新たな喜びに満たされます。

(学芸員・尾崎織女)

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