<見学レポート>丹波篠山ひなまつり | 日本玩具博物館

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学芸室から 2018.03.14

<見学レポート>丹波篠山ひなまつり

風はまだ冷たいもののやわらかな陽ざしが野山にあふれるころとなりました。玩具博物館の庭に満開となった梅を鮮やかな羽根をひらめかせてつがいのメジロが飛びまわっています。

先週末から日曜日にかけて、「丹波篠山ひなまつり」実行委員会からお招きを受け、春が満ち始めた篠山の町々へお邪魔しておりました。丹波篠山は、近世のたたずまいを遺す城下町。京へ上る街道沿いにあたり、また周辺には自然豊かな農村と日本六古窯のひとつ丹波焼の里を抱いています。
そのように生活文化が多様な丹波篠山の7つの会場(城下町の河原町地区と西町地区、丸山、雲部、チルドレンズミュージアム、市野々、福住、日置、今田)が連動して、今春もひなまつりが開催されています(3月10日から18日まで)。「丹波篠山ひなまつり」

丹波篠山・西町のギャラリー・陶々菴の雛飾り


さて、現在ではよく耳にするようになった春のひなまつり催事ですが、ふり返れば、ちょっとした歴史があります。1980年代後半頃より、まずは旧家や博物館施設が春の企画展として雛人形を取りあげて人気を博し、やがて全国的に盛んになると、1990年代には雛めぐりブームが起きました。90年代後半に入ると、町並保存事業の一環として、また観光振興の施策として、公共施設や商店街、家庭の雛飾りを一斉に公開する、町をあげてのひなまつりが始まり、それが2000年代には全国へと広がりを見せました。
私たちも、1990年代から2000年代には、シーズンになると、休館日を利用して、近畿圏ばかりか、東海地方へ、また中国四国、九州地方へと、スタッフ揃って雛めぐりに繰り出していました。それは、江戸時代後期から現代にかけて、どの地域でどのような雛人形が飾られていたのかを見聞する機会となり、毎春、大量の雛飾りと対峙することで、雛人形のもつ美術工芸的な価値、歴史的な価値、民俗的な価値、そして個人にとっての価値を探るための視座をいただけたと思います。
現在、どんどんと回を重ね、季節行事として定着させた町もあり、一方、それぞれの事情によって休止(中止)しておられる町もあります。2010年代に実行委員会を組織した「丹波篠山ひなまつり」は、そうした他の町のひなまつり行事に学びながら、同時に連携の「輪」をつくりながら、何より、主体となる町の方々が行事を楽しみながら、いま、着実な歩みを続けておられます。核となる実行委員会の情熱と才知、“つなぐ力”には感動を覚えます。

11日には、その「丹波篠山ひなまつり」の福住会場と城下町の西町会場で「雛まつりの歴史と文化」にまつわるお話をさせていただきました  。熱心にメモを取りながらお聴きくださる皆さまの、身近な節句文化についての関心の高さと雛人形へのあたたかなまなざしを感じて、喜びに満たされました。

丹波篠山・福住会場での「雛学さんぽ」風景


西町会場にあるギャラリー・陶々菴では、思いがけず「玉翁」の古今雛との出あいもありました。玉翁は、幕末から明治時代にかけて活躍した名工の一人で、江戸の「古今雛」における玉眼(仏像のように硝子の目を入れる手法)の様式を京へ伝えた人形師とされています。玩具博物館は、収納用の木箱に明治12年と明治20年の墨書がある玉翁の古今雛を所蔵しているのですが、瞑想するような切れ長の半眼と厳かな表情に独特の静けさがあります。陶々菴の床の間に平置きで京風に飾られた古今雛をひと目みて、同じ雰囲気を感じました。菴主にご許可をいただいて、古いおばあさまのものだったというその雛の頭を抜いて拝見しましたら、花押入りで「玉翁」の署名がありました。玩具博物館にも今春、二対を展示しているのですが、同じ署名のある明治前期の美しい古今雛と、また篠山で出会えたことをとても幸せに感じています。

日本玩具博物館所蔵の玉翁(頭)の古今雛(明治前期)
玉翁の雛人形の表情
首の墨書 玉翁の花押
陶々庵所蔵の玉翁(頭)の古今雛(幕末~明治前期)
玉翁の雛人形の表情


数日かけて丹波篠山の7つの会場をまわらせていただきました。雛人形愛好者には、京文化の影響を受けた衣装雛と地域独自の土雛――つまりマチの雛とムラの雛、その両方を見せていただけることが魅力でしょうし、旅行者には、雛人形がよく似合う穏やかでほっこりとするこの町の風景や人情との出あいが楽しみでしょう。今週末には多くのイベントやスタンプラリーも用意されていることですから、どうぞ、マップ片手に丹波路の雛めぐりにお出かけください。そして、篠山からは車で1時間。中国自動車道経由で日本玩具博物館のかわいい雛たちにも会いにいらしてくださいね。

(学芸員・尾崎織女)

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