日本玩具博物館 - Japan Toy Musuem -

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館長室から 2017.04.16

花々に囲まれた当館で「端午の節句展」始まる

当館周辺は真っ赤な桃の花や白い利休梅、それに黄色い山吹など、色とりどりの美しい春の花々が咲き競い、入り口の樹齢約40年の八重桜・関山も八分咲きです。そして昨日から6号館西室で、特別展「端午の節句~江戸から昭和の甲冑飾り~」が始まりました。来館された方から、こんな素晴らしい展示がされているとは思わなかった。「来て良かった」と早速にうれしいお言葉が寄せられました。数々の懐かしい展示物との出合いだけでなく、初めて接する貴重な資料の数々に驚かれ、感動されるのです。

入り口に咲く八重桜

端午の節句展には江戸時代末期~昭和初期までの甲冑(具足)飾り約30点が展示されています。京都や大阪の有名な人形店で販売された、当時の最高級品といえる作品が多く、恐らくこれほどの資料が一同に展示されるのは全国でも珍しいと思います。これらはその存在に気付き、私が約20年前から購入してきたものが中心です。時期にも恵まれ、50点をこえる甲冑飾りの収集に成功したのです。やみくもに収集するのではなく、年代や制作者などが解るものに重点を置いてきたのが良かったと思います。このような内容の甲冑飾りコレクションを所蔵する博物館は、国内では類がないと思います。その着想と方向性が良かったのです。

幕末から大正時代の甲冑飾り展示コーナー

6号館東室では雛の御殿飾りを中心とした展示が5月28日まで継続中です。明治中期から昭和初期までの御殿飾り6組が展示されていますが、これらも京都の大木平蔵製や大阪の谷本要助製など、当時の最高級の御殿飾りです。近年、当館の雛人形展の内容が知られるようになるにつれて、全国各地の雛巡りをされている方が来館下さるようになり、今年も北海道や山形などの遠方からも来られました。そして「これほどの内容の御殿飾りを見るのは初めてです」と驚かれます。先般、京都から伝統工芸に携わっておられるグループが来館され、京都でも見たことがないと驚かれました。檜皮葺の御殿飾りは大正バブルと呼ばれる好景気に沸いた一時期に作られた御殿飾りで、価格は小さな家が一軒買えたと伝わり、神戸や大阪などの一部の裕福な家庭で飾られたものです。当時の最高の工芸技術の粋を集めて作られたものですが、これらが文化財として認知されることはあり ませんでした。当館はこの檜皮葺の御殿を8組所蔵しています。檜皮葺の御殿飾りがオークションなどに出ることは皆無といってよく、当館ならと寄贈いただいたことからコレクションが形成できたのです。ただ個人立の博物館がこれらの資料を保存継承することには限界が来ており、その価値を社会に認めていただき、社会の手で守って欲しいと考えています。そのためにはどうすべきか。模索する日々が続きます。

私立博物館は当館同様に特色ある貴重なコレクションを所蔵する館が多く、三重県鳥羽市にある海の博物館も館長の石原義剛氏が昭和46年に設立され、木造船など海に関する約6万点もの資料を持つユニークな博物館です。当館長室№106でも同館について触れていますが、石原館長は私立博物館は「国や行政に見捨てられ、漂流している」と厳しい現状を述べられていました。同館も平成5年に5万7千人あった入館者数が平成27年度は2万7千人に減少、約1,300万円の赤字になり、昨年9月に同館から館運営が困難だとして、鳥羽市に対して施設などの買い上げを要望されていました。去る3月に鳥羽市が8,600万円で買い上げることが決まり、この10月から鳥羽市立として再出発します。運営は、現在のスタッフがかかわるとの情報も流れていますが、現在、市として検討中と聞きました。貴重な文化遺産が散逸から免れ、後世に継承されることは喜ばしいが、広島県福山市の日本はきもの博物館に続き、ユニークな活動を展開されてきた私立の博物館が公的な支援がない中で次々に姿を消す状況は本当に残念であり、悲しい。

各地の木造船が並ぶ海の博物館

話は変りますが、かねてから制作に取り組んでいた『ちりめん細工の小さな袋と小箱』が今月20日に発売されます。出版元は朝日新聞出版。定価は1300円+税です。内容は小さな袋物や小箱が中心です。袋物は小さな巾着袋、五角袋、檜垣文様袋、矢羽根文様袋、透かし籠袋ほか計13点と小箱が計10点です。現在、ちりめん細工といえばつるし飾り用の作品と思われがちですが、この小袋や小箱は実用的な作品です。また江戸や明治期の小さな作品も24点紹介されています。ぜひご覧下さい。

『ちりめん細工の小さな袋と小箱』(日本ヴォーグ社刊) 

(館長・井上重義)

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